当ブログも2500回目の更新になります。長らくお付き合い頂き、ありがとうございます。
前回ラストでも記したように、転職により勤務時間が遅くなり、帰宅が「午前様」になりますので、今回から更新体制を変更します。毎水・金・日の3日間、毎時22時更新とします。日曜日は休みだけれど、水・金は午後からの出勤になるので、出勤時刻前に記事を書き上げて出ていく事になります。なのでこれまで末尾に書いてきた「今日のできごとから」は、「What' New」と改め、前日までに起きた出来事を書いていきます。
今後も、宜しくお願いいたします。
本来なら今日は、GW期間中の国内航空各社の利用状況について書きたかったが、今回は各社のリリースが遅く、大半が昨日10日(ANAは今日昼現在ではまだ出ていない)になってしまって、今日の午後までにはまとめきれません。なので予定を変更して、別の事を書きます。
JR西日本は先月4月11日、「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」と題したリリースを発表しました。北海道に続く、JRグループのショッキングな報告なので、簡単だがまず記しておきます。
このリリースでは冒頭、民営化(1987(S62)年4月1日)以降の35年で、ローカル線を巡る環境は大きく変化し、路線によっては厳しい厳しい利用状況になっている。大量輸送という鉄道の特性が十分に発揮できていないし、環境面においてもこれでは鉄道は優位に立てない。特に輸送密度2,000人/日未満の線区において、収支率などの情報を開示し、地域旅客サービスの確保に関する議論のたたき台としたい、旨記されています。
今回、JR西日本から示されたデータ等を、特に「別紙」及び「参考資料」から、私なりに分析し、考えてみたいと思います。
【別紙1】 「在来線 線区別ご利用状況」は、ひと目で見て、予想以上に悪いというのが率直な印象。「アーバンネットワーク」(大阪からの直通列車が頻繁運行する区間)や山陽本線、北陸本線、紀勢本線、その他広島や岡山の近郊などの一部の線区を除くと、皆8,000人/日未満。特急がある程度フリークエントサービスを行っている福知山線や伯備線でも、大阪や山陽本線に接続する一部区間を除くと8,000人/日未満、伯備線の北部は4,000人/日未満で、利用の大半は特急だろうと思われるので、地域輸送は相当少ない事が伺われます。
山陰本線に至っては、園部~小串間以外はまるまる8,000人/日未満、他はともかく、特急〔スーパーまつかぜ〕〔スーパーおき〕がある程度走る出雲市~益田間さえ2,000人/日未満で、「開示対象」になりました。出雲市~浜田間は24年前まで、東京へ行く寝台特急もあったのに。
電化区間でも、小浜線・小野田線と、加古川線(西脇市~谷川間)は2,000人/日未満です(小野田線以外は民営化後の電化)。
今回、輸送密度を「2,000人/日」「4,000人/日」「8,000人/日」で分けた上で利用状況を公表しているが、特に「2,000人/日」「4,000人/日」は、国鉄時代末期の特定地方交通線の線引きを意識したのではないかと思われる。この線引きを定めた、いわゆる「国鉄再建法」では、おおざっぱに言って、
1.第一次特定地方交通線 旅客輸送密度2,000人/日未満で、営業キロ30㎞以下(または旅客輸送密度500人/日未満で、営業キロ50㎞以下)のいわゆる「盲腸線」(終点で他鉄道への接続がない、行き止まりの路線)
2.第二次特定地方交通線 その他の輸送密度2,000人/日未満の路線
3.第三次特定地方交通線 輸送密度4,000人/日未満
で分類し、対策を講じる事になりました。
(他にも当時は貨物輸送でも基準があった)
この基準で当てはめると、JR西日本の在来線2649.0㎞(「データで見るJR西日本 2019」より)のうち、約47%の1268.9㎞が、「第二次特定地方交通線」までには該当し、万が一全部廃線となると、特に中国地方の中部から山陰地方にかけては、鉄道ネットワークはほぼ壊滅します。
続いて【別紙2】「 2019年度 輸送密度(平均通過人員)2,000人/日未満の線区の経営状況」(2017-2019平均)で、民営化から、コロナ禍の影響が出る直前の2019(H31~R2年)の比較も記されています。
特に芸備線の東城~備後落合間が、衝撃的とさえいえる位悪い。収入が約100万円しかないのに、支出が2憶6000万円もかかっていて、桁が2つも違っている。収支率0.4%は、情報が開示された線区では最低(唯一1%を切っている)、「ビジネス」としてはおかしいだろ、とさえ感じる。収支係数で25,416などという数字、今回初めて見ました。国鉄時代末期、北海道の旧美幸線(美深~仁宇布間)が「日本一の赤字路線」と称され、地元ではこれを逆手に取って存続のためのPRも行ったりしたが、この時の数字でさえ、最高で4,780でした。この数値も極めて悪いが。今回、美幸線の数値とほぼ同等、あるいは上回るのは、ここと、同じ芸備線の備中神代~東城間(4,129)、備後落合~備後庄原間(4,127)、そして木次線の出雲横田~備後落合間(6,596)で、特に備後落合を巡る各路線・区間が、JR西日本の中でも図抜けて悪い事が、データでもはっきり示されています。6年前、2016(H28)年の9月に広島の方から来て、木次線に乗り換える旅を当ブログで書いたけれど、既に「秘境駅」化している状況がはっきり見えていて、そうだろうなあと思ってしまう。
もう一つ、ちょっとショッキングだったのが、同じ芸備線の下深川~三次間。東側と違って、広島市と三次市(広島県では8番目の人口の市…と言っても2017(H29)年度が約5.36万人)を結ぶ、ある程度は幹線的な要素もある路線だと思っていた。備後落合と合わせて書いた
№1576で、「線路の整備や新車両の導入も行って、積極策に出て欲しい」などと書いてしまったのだが、この数字では、そうもいっていられなくなったのかも知れない。
とにかくこの【別紙2】に記された各線区の、33年間の利用の減り方が尋常ではない。姫新線・津山~中国勝山間の2019(H31~R元)年度の1987(S62)年度比60%、というのはまだ良い方で、他に50%以上をキープしているのは、越美北線しかない(全区間の平均なので、越前大野で分割して計算したら、九頭竜湖側が極めて悪い数字になるだろうというのは、容易に想像できる)。特急〔スーパーおき〕やSL〔やまぐち〕が走る山口線でさえ、宮野以北は30%以下。
小浜線は37%、加古川線(西脇市~谷川間)は28%。どちらも民営化以降かなり経ってから電化されているにも関わらず、大幅に減少。そして、11線区で10%以下になっています。
その左、「2017-2019収支(億円)」では、収入から支出を引いた額が示されていて、これが純粋な「赤字額」となるか。山陰本線・出雲市~益田間が34.5億円と赤字が図抜けて高いが、特急がある程度頻発している都市間区間でもあり、収入も開示各線区では一番多い(約10億円)。赤字額28.6億円の紀勢本線・白浜~新宮間も、収入が6.7億円と2番目に多く、特急運行区間では、ある程度の料金収入は見込める。言い換えれば、地域輸送では収入は見込めないという事になり、これ以外の開示各線区では、小浜線が3.1億円、播但線3.0億円(〔はまかぜ〕に竹田人気も加味しての数字だろう)の他は3億円未満、20線区は1億円にもならない。木次線・出雲横田~備後落合間など0.4億円でワースト2だ。
【別紙3】はさらに、コロナ禍の影響がはっきり出てきた、2018-2020平均を反映した数字が並んでいる。先に記した、「特急が走っているのでまだ収入が多い」区間でも影響が甚大だし、収入では10億円以上の線区がなくなり、芸備線・備中神代~東城間も、1,000万円を切ってしまった。利用の減少はさらに顕著になり、開示全線区で、利用が1987(S62)年度比の50%を割り込みました。大糸線(糸魚川~南小谷間)・木次線(出雲横田~備後落合間)は、コロナ禍とは言え2020(R2)年度は前年度比でも半分以下。大糸線は夏は白馬岳への登山、木次線は路線そのものの行楽(〔奥出雲おろち号〕など)の需要がわずかながらでもあったろうが、それらが失われた結果と思われる。
そして【別紙4】では、「2019年度 輸送密度(平均通過人員)」が記され、1987(S62)~2017(H29)年は10年刻み、その後は1年刻み(参考なのか2020(R2)年度まで)の数字が並ぶ。開示各線区は全て、民営化の時点ですでに5,000人/日には達しておらず、3ケタの路線も少なくないが、それにしても、10年刻みで利用が激減しているのには驚かされる。大糸線は、平成時代までは関西からの〔シュプール号〕直通運転もあったが、短期間の行楽輸送では持ちこたえられないのか、昭和~平成の10年間ですでに、1/3に減少している。山陰本線の益田~長門市間及び長門市~小串(・仙崎)間も、特急〔いそかぜ〕がなくなった1997(H9)~2007(H19)年の10年間で、一気に半分程度に落ちている(むろん、特急1往復だけで支え切れるものでもないが)。因美線も、急行〔砂丘〕が1997(H19)年11月改正で特急〔いなば〕となり、智頭急行経由に変更された事があるはず、次の10年間で1/4強に落ち込んでいます。
前述の芸備線・東城~備後落合間は、民営化時点でも476人/日と、すぐに廃止になってもおかしくなかった数字だった。芸備線の一部分だったから見過ごされてきたのだろう。当時は急行〔たいしゃく〕(備後落合より南だけ)の広島直通もあったりしたが、次の10年間で、一気に100人/日に落ちている。コロナ禍前の2018(H30)年で既に9人/日で、ひょっとしたら、北海道以上に深刻な区間、なのではないか?
総合していうと、これらの線区は、民営化の時点で既に特定地方交通線レベルの利用しかなく、それでも一部は特急や、民営化時点ではまだ相当数残っていた急行による、長距離輸送によって何とか支えられても来れたが、これらがなくなったら、地域輸送では到底維持できなくなる線区がほとんど、という構図が見えてきました。
別に参考資料があるが、「人口推移」は、JR西日本のエリア(近畿・北陸・中国)は全国平均を下回り、今後もそうなる、一方で自動車の保有台数は、近畿以外は1990(H2)年以降の3年間で全国平均を上回って増加し、北陸・中国は倍増したと。そして、高規格幹線(自動車専用道路など)の整備状況の図もあり、例えば中国地方は、民営化時点ではほぼ中国自動車道1本だけで、これだけでも中国山地の各線区には大打撃だが、その後山陽・山陰の路線や、それらを相互に結ぶ縦断道路が相次いで開通していて、低規格の鉄道では到底太刀打ちできない。これは近畿や北陸もそう。自動車専用道だけでなく、前述の木次線も、輸送量的には昔から輸送量が希少ながら特定地方交通線の対象から除外されたのは、並行する道路が未整備だったことがあった。が、1992(H4)年開通の「奥出雲おろちループ」を擁する国道314号線の整備は、木次線の維持の前提を壊してしまったのは、間違いないと考えられる。他にもこういう線区はあるでしょう。
正直、ここまで書いてきた感触では、これら開示各線区に、明るい展望がほとんど感じられない。現在でも特急が走る幹線(紀勢本線・白浜~新宮間及び山口線+山陰本線・宮野~益田~出雲市間)は、ネットワーク維持のために必要と思われるから何とか維持の方策が建てられると思われる(思いたい)が、それ以外の路線は、どうなのだろう…。北海道と同じで、全路線が全てきれいさっぱり廃線になってしまうとも思わないが、逆に全路線が全て一転維持される事になるとも、ちょっと思いにくい。特に中国山地の各線区は、三江線の前例もあるだけに、覚悟を決めなければならないのではないかと思えます。
今後はこのデータを踏まえて、沿線の自治体がどう出るか、が焦点になると思われる。「なくなったら困る」「反対」という声は大きくなるかもしれないが、と言って国鉄時代末期のような、大規模な反対闘争にまで展開できるほどの体力が、自治体にあるのか。それに、既に高速道路網の整備の恩恵を受けていて、大都市への移動にも高速道路の利用(マイカー・高速バス)が一般的になっていると思われるのに、なおも鉄道の存続に固執するだけの理由を示せるだろうか?例えば広島県庄原市東城は、広島まで高速バスで3時間弱、大阪まで約4時間20分、長距離輸送に関しては、鉄道は意味をなさなくなっていて、それでも、小型バスでも空気輸送になりそうな利用者数しかない鉄道に、しがみつき続ける事が、できるだろうか?他地域でも、そのような場所は多いと思われる。
北海道の時にも書いたが、鉄道は大量輸送こそ最も得意な分野であり、少なくともある程度まとまった輸送量が、コンスタントに発生し続けないと(曜日や季節による変動はあるにしても)、具体的には「
1時間に最低1本程度の運行本数が確保されるくらいの輸送量」がないと、設備投資に多額の費用が掛かる鉄道としては、維持が難しいのではないか?
残念ながら、「乗って楽しい列車」的な観光列車が週末に走るとか、TVの紀行番組で取り上げられるとか、一部の「クルーズ列車」が立ち寄るだけ、程度では、ローカル線はもう残せない。その認識は持つべきだろう。JR側にはこの先、もう少し詳細な(北海道並みの)情報の開示も求められるし、自治体側は、本当に残して欲しいなら、どのような、鉄道を最大限有効活用するような「交通政策」を持ちうるのか、示されなければならないと思う。単純な赤字補填は、運営体制がどうであってもうムリ。それに人口が減少しているので、純粋に旅客数を増やすのはほぼ不可能と思われ、かなり画期的な(貨物まで含めた)交通政策の大転換の方策が示されない限り、今後5年から遅くとも10年以内には、開示各線区の廃止が相次ぐ事になるのではないか。とにかくJR西日本と関係する各自治体が納得するまで(納得できん…という声もあるに違いないが)、キチンと話し合って、行く末を決めて欲しいと思います。
我々外野としては、その話し合いに口を出す権限はない。廃止されたら寂しい、残って欲しい、とは思うが、やはりそこまで。郷愁ではビジネスはやっていけないので。鉄道として乗れる今のうちに乗って(それも普通の列車で)、現実を確かめておこう、それしかないのでは、ないですかねえ。いずれにしろ、議論の行方をキチンと見守る必要があると思います。
JR東日本も、今年中には地方路線の運営状況の情報を開示する方向になりました。残るJR3社も、どこかで情報を開示する事になるのではないか(東海は微妙だが)。当然問題はJRグループに限った事ではなく、令和の世は、地方鉄道路線にとっては、「冬の時代」となってしまうのかも知れません。哀しい事ではあるが、現実を受け止める覚悟が、我々鉄道趣味人にも求められています。
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