№2530 JR東日本 ローカル線情報開示
JR東日本は先月28日、「ご利用の少ない線区の経営情報を開示します」と題したリリースを発表しました。簡単ながら、状況を分析してみます。
「ローカル線」と書いたが、今回公表された路線には、幹線と目される羽越本線や奥羽本線、上越線も含まれています。地域輸送の窮状は、路線の「格」を問わなくなっている事が窺われます。
基本的な内容は、4月に公表されたJR西日本とほぼ同様で、輸送密度2,000人/日未満の路線・区間を対象としています。
【別紙1】は、線区ごとの収支データで、コロナ禍の影響が出る直前の2019(H31~R元)年度の状況です。
先に平均通過人員を見ると、民営化初年度の1987(S62)年度との比較で、「32年でこんなに減っているんだ」と、少々ショックも感じられました。ほとんどの線区が半分以下、90%以下という路線もいくつかある。もっとも一部は、32年前は長距離列車が多数走っていた線区で、一番減少率が大きい津軽線・青森~中小国間(△93%)だと、1987年度末(1988(S63)年3月13日)に青函トンネルが開通、北海道を目指す寝台特急〔北斗星〕や特急〔はつかり〕、急行〔はまなす〕、快速〔海峡〕が多数運行を開始していました(だから津軽線のデータは、蟹田でなく中小国で分割しているのだろう)。わずか19日だったが、この年度の平均値に相当大きな影響を与えた事が解ります。奥羽本線・新庄~湯沢間(△90%)も、山形新幹線開業前だったから特急〔つばさ〕・寝台特急〔あけぼの〕といった長距離列車が多数ありました。だから単純には比較できない。
しかし逆に言うと、長距離輸送を担う列車がないと、地域輸送は幹線でも元々大変だった、とも言えます。これはJR西日本と同じです。
さらに、長距離輸送がない純粋なローカル線では、民営化時点で既に3ケタしか利用がなかった区間で、さらに1/10程度に減ってしまっている所が多い。花輪線は全線が1987年度でも特定地方交通線レベルしかなかったが、特に中間の荒屋新町~鹿角花輪間は915→78人/日(△91%)で、今回公表された区間では、平均通過人員が一番少ない。陸羽東線・鳴子温泉~最上間と、久留里線・久留里~上総亀山間も2ケタに落ち込んでいる。
大糸線は、JR西日本の非電化区間がクローズアップされているが、東日本の電化区間でも、白馬より北は215人/日にしかならない(非電化区間は105人/日)。信濃大町~白馬間も△71%の762人/日。白馬岳を控えて〔あずさ〕が乗り入れていても、観光・行楽輸送だけでは支えるのは難しくなっている、という事か。小海線も、清里・野辺山を抱えた小淵沢~小海間が△57%の450人/日。観光路線も、現実は厳しい。
営業係数は、一番悪いのが久留里線・久留里~上総亀山間の15,546。収支率が0.6%しかない。花輪線・荒屋新町~鹿角花輪間が10,196。5ケタなのはこの2線区。
【別紙2】は、コロナ禍の影響が出た2020(R2)年度の状況で、当然ながら状況はさらに悪化。北上線・ほっとゆだ~横手間が△91%・72人/日。飯山線・戸狩野沢温泉~津南間が対1987年度比で△91%・77人/日。飯山線・磐越西線・陸羽東線も、一部の区間は営業係数が5ケタに悪化している。
今回公表されている線区で、平均通過人員が1987年度比の半分以上をなんとかキープしているのは、左沢線・寒河江~左沢間、只見線・会津若松~会津坂下間、この2線区しかない。
【別紙3】「在来線 線区別ご利用状況」は、2019年度の平均通過人員のランク毎に線区を色分けしている。全体的な印象としては、他社・他地域もそうだろうが、県境を跨ぐ区間の利用が目立って少なくなる。それとやはり、安定してまとまった長距離の利用がないと苦しくなるなあ、という印象は、JR東日本でも変わらない。2,000人/日以上とされる区間でも、田沢湖線や、奥羽本線・福島~米沢間は「新幹線」がなかったらどんな結果になるか、容易に想像がつくと思う。
(鹿島線は、鹿島神宮~鹿島サッカースタジアム間は、スタジアムでの行事がなかったら、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の列車のみ。だから対象は香取~鹿島神宮間とすべきではなかったか)
これで、JR旅客6社の内5社で、「ローカル線」に関わる経営情報の情報が出そろった事になります。JR東海は出していないが、恐らく同社でも、名松線のみならず、飯田線や身延線、高山本線、紀勢本線あたりでも一部の区間は、似たような厳しい数字が並ぶと思う。本当はJR東海にも情報を開示してもらいたいが、数字に関係なく自社での運営を継続する心構えだ、とはっきり言えるなら、まあいいだろう。
地方の交通の在り方が国レベルでも議論される事になり、今後は各地で、今回までに公表された数値を基に議論が進められる事になるのだろう。都会に住むヨソ者が軽々しくは言えないが、全部の路線がなくなるとは、さすがに思えない。JR東日本でも、羽越本線や奥羽本線は、旅客は希少でも貨物の動脈となっている路線もあるし、やはり観光客を呼び込むためには必要とされる線区もあるだろう。通学需要が多い路線もあるし。ただ一方で、逆に全部の路線が維持できるとも思えない。特に「営業係数5ケタ」「収支率1%未満」「平均通過人員2ケタ」、この3点がそろった線区(2020年度のJR東日本では5区間)は、覚悟を決めなければならないかも知れない。JRだから何とか残っているともいえる。純粋な民間企業だったら、「ビジネス」としてはいくら何でも数字としておかしいので。残念ながら、義務感・精神論だけでは残せるものではない、と思う。
当然地元の反発は予想されるが、と言って40年くらい前の特定地方交通線問題の時のような、大規模な反対運動を行える体力があるかどうかは疑問だし(そもそも地域そのものの過疎化がさらに進んでいる)、既に暮らしの大半を道路交通(高速道路・高規格道路)に委ねていておいて、なおかつ鉄道を残せと言い切れるのか。10月には、平均通過人員500人/日以下の只見線が11年ぶりに全線の運行を再開するが、1日3往復しかない鉄道路線を、沿線の人々の日々の暮らしにどう組み込んでいくのか。只見線のケースは、今後全国各地の鉄道路線(JR以外も含めて)の維持・運営にとって、大きな試金石となるでしょう。ともかくJR各社も地元も、納得のいくまで(いかないよ、という人も少なくなかろうが)、誠意のある話し合いを重ねて、各路線の行方を決めて欲しいと思います。
こんな事を書いている最中だが、昨日から今日にかけての豪雨で、またJR東日本の路線にダメージが与えられたようです。特に米坂線・磐越西線は、また鉄橋がやられてしまったようで、まだ被害の全体像が明らかになっていないが、これでまた、路線を残す廃止するの議論に発展してしまうのではないか、心配です。
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なお当ブログは、8月16日予定でSeesaaブログに移転します。11日が、BIGLOBEウエブリブログでの最後の更新となる予定です。詳しくは当日書ければと思います。
《What' New》
1日 ウクライナ 穀物輸送船 オデーサ港出航
2日 日野自動車 データ不正問題 調査報告書公表
3日 ガソリン価格 全国平均1リットル=169.9円 5週連続値下がり
4日 駐日ロシア大使 広島原爆慰霊碑に献花
日野の不正は20年にも渡って続けられていたそうだが、このあおりで、日野のエンジンを搭載したいすゞのバス(ガーラ・ガーラミオ・エルガハイブリッド・エルガデュオ)も出荷を停止したそう。幸か不幸か、コロナ禍でバスの需要が減っているからすぐにはバス業界全体への影響は出ないだろうとは思うが、ともかく、出荷が正常に行われるよう、早く事態が収束して欲しい。
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