№1790 鉄道ピクトリアル2017・12月臨時増刊号 【特集】阪神電気鉄道(鉄道図書刊行会)

 鉄道ピクトリアル誌の臨時増刊、阪神電気鉄道(阪神)の特集号が昨年発売になったが、ここもやや遅くなってしまいました。

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 表紙は1000系と5700系の、新ステンレスカーの並び。5700系、まだ撮っていないんだよなあ。1000系は近鉄直通を見据えて、2007(H19)~2011(H23)年にまとまって製造されたが、96両の製造数は、阪神全体の旅客車輌の26.8%、8000系に次ぐ勢力で、そんなにあったんだ、という印象。近鉄線に行っている編成が多く、阪神線内では見かける機会が意外に多くないから、そう感じるのかも知れません。

 阪神の一社単独特集も、前回の京急と同じく、1997(H19)年7月以来だから20年以上も経ってしまいました。当時は2年前の阪神淡路大震災の衝撃がさめやらぬ頃だったが、電車は9000系(近鉄直通対応前の赤帯時代)と5500系を除くと、急行系がクリーム+オレンジがかった赤の「赤胴車」、普通はクリーム+紺色の「青胴車」の時代でした。

総説:阪神電気鉄道
「十年一昔」だから、20年もやはり長い。特に阪神は1998(H10)年2月の阪神~山陽直通特急運行開始と、2009(H21)年3月の阪神なんば線開業及び近鉄との相互直通運転と、特にダイヤ面での大きなプロジェクトがありました。阪急との経営統合もまた一大事だったか。
 大手私鉄だと不動産業も大きいのが普通だけれど、阪神は大規模な宅地開発というのは、戦前の甲子園くらいだろうか。一番海側を走る鉄道だから、開発の余地があまりなさそう。むしろ最近は、梅田のエンタメの方が目立つ気がします。

阪神電気鉄道の鉄道事業を語る
(阪神 岡田信 都市交通事業本部長×今城光英 大東文化大学教授)

 同じ関西の他事業者の動向もあって、関西の鉄道は利用が一律に落ち込んでいるのではないか、と先入観を抱いていたのだが、阪神に関してはそうではないと。若いお客さんが多いというのは、明るい話題ではないだろうか。阪神なんば線も、京セラドームの存在が大きいという事。近鉄線への直通需要は、どの程度あるのだろうか。(「ハンドブックHANSHIN 2017」に拠れば、1日あたり3万人強らしい)。
 5700系は今年は2編成増備で、これで「青胴車」は5001形のみになるのだろうか。
 六甲山は、インバウンドのお客さんが増えているが、ホテルや企業の保養施設は減少し、寂しさも感じると。大都市に隣接しているので、箱根などとは違うという事でしょう。スキー場がある。

営業設備とサービス
 阪神は小駅が多く、朝晩は駅員を配置しない駅が少なくないが、そうなったのは最近の事ではなく、昭和の終わりには駅務管理システム導入で、既にやっていたらしい。
「線路は続くよ どこまでも」のメロディーは前から使われていたが、阪神なんば線開業の頃からやや曲調が代わっていたのは感じていた。向谷実氏のアレンジだったか。
「ええまちMAP」は、今は作っていないらしい。
 20年前は、「スルッとKANSAI」がスタートして、1年経った時期でした。今月一杯で改札機などでの利用が終了し、払い戻しのみになるのだから、磁気カード時代もいよいよ終わりと思う。ICカードの利用率が50%とは、関東の感覚からしたらかなり低く感じられる。関東では8~9割位とも聞いているので。当初はポストペイでC/C加入が必須のPiTaPaだけだったからこうなっていると思われるが、ICOCAとも提携し、全国相互利用も行なわれているから、今後はもっと増えるでしょう。「レイルウェイカード」は、どの程度の売り上げがあるのだろう?

駅管区、列車所のあらまし
 20年前には書かれていなかった事で、私鉄の職員だったからこの点が興味深かった。駅員も乗務員も日勤で、泊まり勤務はないというのがちょっと驚いた。初電・終電担当などの乗務員は、手配された送迎用バス・タクシーで出退勤するらしい。だから小駅は、朝晩は駅員がいなくなるのか。ローカル私鉄みたい。駅の管区制とか、やっている事は私が勤務していた所とほとんど変わらないけれど。

車両総説

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 この20年間で新造されたのは、急行系は9300系と1000系、普通系は5550系と5700系。
 合計で134両になるが、これは旅客用車両の37%になります。この数字は、関西の大手私鉄としては一番高いのではないでしょうか。関西は全体的に車両の新陳代謝が進まないという印象が、特に最近はするので。近鉄直通用車両を大量に必要としていた事もあったろうが。
 5700系は大手私鉄の全ロングシート通勤車では初のブルーリボン賞受賞車(名鉄6000系は、受賞時はセミクロス)。バケットシートで中仕切りもあるロングシートとは、関西も変わったと思います。扉開閉ボタンは、関西の私鉄全体でも初めてだったっけ?寒い所も走る近鉄あたりにも普及しても良いと思う。

立体交差事業、駅改良工事の実績と 今後の改良工事について
 阪神は軌道から始まった鉄道なので主要駅でも規模が小さく、列車が大型化したり、長くなったりすると、すぐ不都合が起きる事になるようです。春日野道駅の旧ホームは、バラエティ番組でも出てきたような。
 連続立体交差工事は20年前でも各地で進行中で、当時の対談でも、「立体化の進んだ鉄道という特徴を持っている」という表現がありました。現在も各地で進行中だが、まず印象的だったのは、梅田~野田間の地下線化による、福島駅の地下化でした。位置そのものが、南側の国道2号に移動しています。
 梅田は、新1番線には降車ホームは作らないようだから、こちらが普通電車用になるのだろう。
 今後は阪神なんば線の淀川橋梁かさ上げがあって、合わせて伝法・福の両駅が高架化されるという。具体的な設計はこれからのようだが、この機にどちらかの駅が待避駅になると良いのではないか。阪神なんば線は10.1㎞の間に待避駅がなく、ダイヤ編成上のネックになっていると思われるので。

阪神なんば線の構想から完成、そして今後

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 画期的な新路線だったが、早い物で全線開業からもうすぐ9年になります。
 構想は戦後すぐからあったが、20年前は万博後の情勢の変化で計画が止まってしまった、とあった。実際は地元との交渉が決裂したのが、長年西九条止まりになっていた最大の要因になっていたようです。
 出来島は先行した高架化の時点で、ホームが延伸されていた。
 7年間で新線区間の利用者数は55%増となったが、「ハンドブック」を読むと、阪神なんば線全体では、中間は西九条を除くと良くて九条の1万2000人強、1万人に届かない駅もいくつかあり、一番少ない桜川は5000人強と大分少ない。これでも増えてはいるが(マンションとかが建っているそうだ)、今後は中間駅の利用者の増加も課題でしょうか。
 後は別項で記されているが、京セラドーム対策か。甲子園と違って、増発・延長運転をやろうとすると、近鉄の大阪難波折返しを延長する形を採らざるを得ないから、難しい事なのだろうと思います。近鉄は全車両が阪神直通対応ではないし。

輸送と運転 近年の動向
 まず沿線人口の推移の表があって、全体的には阪神淡路大震災があった1995(H17)年よりも増えている。大阪市北区(梅田)が5割増し、神戸市灘区(岩屋など)が40%、東灘区(御影など)が35%増。一方で尼崎市は減少している(最近はやや微増か)。阪神なんば線開業後の大阪市浪速区・西区は、開業時時点との比較で17%増らしい。
 ダイヤが朝ラッシュ時と日中、共にカラーで掲載されている。同じ種別でも、車両保有会社で色を変えているのが興味深い。直通特急・特急は黒が山陽、快速急行は緑が近鉄か。阪神なんば線の普通は、実線…近鉄、破線…阪神、だろうか?
 ラッシュ時は、梅田行で西宮を始発とする列車が1本もないのが目につく。20年前もそうだった。区間急行は甲子園、区間特急は御影を始発としている。「ハンドブックHANSHIN 2017」の駅別乗降人員の記載に拠れば、甲子園(阪神全体で3位)の方が西宮(4位)より8,000人多い、という事もあろうが(私はずっと、逆だと思っていた)、西宮の乗客からは不満は出ていないのだろうか?小田急の今3月の改正でポイントの一つに「始発駅の多様化」が謳われているのを思い返すと、そう感じます。
 区間特急は、この運転内容だと「通勤急行」の呼称の方が、実態に合うのではないか?と思う。阪神は昔から、「通勤○○」という名称は使わない所だが。一頃は同じ種別でも、曜日や上下で停車駅が異なるのが特徴的でした(特に梅田発着時代の準急)。
 各種別とも、改正の度の運行形態の変更が大きくなりがちなのもまた、阪神の特徴か。特に震災(そのものと、その後JRが一番早く大阪~神戸間で再開した事)と、阪神なんば線開業が大きな要因になっていると思われます。快速急行は、元々は梅田~西宮間運転の急行を、JRへの対抗策としてノンストップで三宮へ延伸したのが始まりでした。それにしても、特急の停車駅も増えました。震災前は梅田を出ると基本的には西宮までノンストップ(甲子園は夜間停車)、その後三宮までは芦屋、御影のみの停車だった。この傾向ははJR新快速(大阪~三ノ宮間ノンストップだった)や阪急の特急(十三・西宮北口)も同じなのだが。

阪神電鉄とともに

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 OBとの対談。過去の特集とは異なり、ダイヤ編成面での裏話が聞けて興味深かった。震災復旧、山陽直通特急運転開始、阪神なんば線開業と、エポックメイキングな話が中心で、山陽直通特急開始時の1998(H10)年改正は、阪神と阪急・山陽・神戸高速(車両はないが)のダイヤ編成上の課題を解消するものだった、とは少し意外な気もしました。関東ほどは本数は多くはなかったし、ラッシュ時はともかく、日中は多少の時間調整は必要になるとしても、大した問題にはならないのではないか、と思っていたので。阪神の12分サイクル(特急・快速急行・普通)がある程度完成されていたような気もしていたし。
 山陽電鉄は神戸高速全線の運営から撤退したが、運行形態からしたら新開地~西代間は山陽が第2種、という考え方は、山陽にはなかったのだろうか。
 近鉄側の「快速急行三宮行を積極的にPRしたい」という発言は、単に利便性向上だけでなく、相直の行先を前面に出してビジネスチャンスにしたい、という、昨今の相直のトレンドそのものだと思います。

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 一つあるとしたら、甲子園の観客輸送は、具体的にはどのような体制で行なわれているのだろうか、そこを知りたいという読者も多かったのではないだろうか。ダイヤもそうだし、要員はどのように確保されているのか。同じ観客輸送でもタイガース戦と高校野球(それに「甲子園ボウル」)ではどう違うのだろうか。
 それにしても、この数年の夏の高校野球シーズンでは、初電前に梅田始発の臨時急行が運転されるようになったが、そんなに観客が多いのか?先の対談では、阪神なんば線開業後からあたりから走り出すようになったらしいが。朝ラッシュ時にかかるので、混雑を分散させる意味があるのかも知れない。
 また、東日本大震災が発生した2011(H23)年とその翌年、楽天がパ・リーグ主催試合を甲子園で行なったが、どの程度の体制を敷いて輸送に当たったのだろうか。その他諸々、話を聞きたかった所です。

 他にも色々あるのだけれど、阪神電鉄の未来絵図はどう描かれるのだろうか。梅田と難波、大阪のキタとミナミの両方に直接行ける唯一の鉄道としてのアドバンテージを活かした営業政策が、今後も採られていくのだろうと思われます。
 ダイヤ面では、近鉄へも直通するようになったので策定は近鉄線にも影響されるようになり、特に土休日の午後は時刻のパターンが変わってしまっているので、この辺は改善されると良いと思う。でないと、さらに山陽にまで影響が出るので。快速急行の増発も検討課題となるでしょう。
 近鉄22600系直通は今の所団体列車のみだが、今後定期有料特急の運行はあり得るか?近鉄直通の需要、もあるが、阪神線内で有料でも着席通勤、のニーズはどれだけあるか、興味もあります。大阪までだと距離が短いから、そんなにはないかな?
 ホームドアはどうするのだろう?梅田は改築と合わせて整備、という方向になったが、大阪難波~尼崎~神戸三宮間は、有効な手段がまだ見えてこないようです。
 関西の私鉄は「若さ」がなくなってきているのか?と勝手に考えていたのだが、少なくとも阪神は車両も施設も、また利用者層も、若々しいイメージがあると読み通して感じました。短距離だし、阪神間では一番海側だから利用者を増やすのは、本当はあまりたやすくはないとは思うが、JR・阪急と切磋琢磨しつつ、さらに若い人に魅力的な(通勤・通学でも、レジャーや野球観戦でも)鉄道として発展する事が期待されます。

 それにしても、「大阪近鉄バファローズ」が残っていればなあ。タイガースとの交流戦や、もしかしたら日本シリーズでの対決が実現したら、「なんば線シリーズ」とかと大いに盛り上がったろうと思うのに、残念です。

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 近鉄が、新型名阪特急の計画を発表しました。アーバンライナーの後継、という位置づけでしょうか?イメージイラストでは、赤い車体の流線型。前後車両がハイデッカーの「ハイグレード車両」、中間が「レギュラー車両」で、いずれもシートピッチが日本最大級でバックシェル型。ユーリティスペースを設置(どんな物かは解らないが)、Wi-Fiやコンセントはもう当たり前か。2020年春デビュー。難波~布施間での、阪神電車と並ぶ姿も楽しみです。神戸三宮には直通しないだろうが。

《今日のニュースから》
10日 任天堂 「コロプラ」を特許侵害で提訴 
11日 「ボール投げず敬遠」 NPB導入決定

「ボール投げず敬遠」は去年メジャーリーグが導入したものだけれど、日本では過去に、巨人にいたクロマティや、阪神時代の新庄剛志が敬遠球を強引に打って出てサヨナラタイムリーにしたという事もあったのに、そんなドラマも見られなくなります。実際に去年この敬遠を経験したイチローは批判的だったようだし、どうなんだろうね?
 カリフォルニア州では大規模な土石流が発生して、13人死亡と報道されています。現場は昨年末に大規模な山火事があって、樹木の消失で土砂が流れやすくなっていたとも伝えられています。カリフォルニア、というよりアメリカは、本当に「火攻め水攻め」です。
 北陸のTVは大変な事になっているようだが、日本でTV本放送が始まって今年で65年、こんな事はあったのだろうか?見られなくなった分はどうなるのだろう?何かの形で補償されるものなのか?スポンサーはもちろん、視聴者にも。

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