鉄道ピクトリアル誌の臨時増刊、東京地下鉄(東京メトロ)の特集号が先月発売になりました。
少々遅くなったが、簡単に取り上げます。
構成はいつもの1社特集の臨時増刊と同様で、前半に対談と関係者による鉄道事業を中心とした現況の報告。 中盤には過去の研究と、マニア的な目線の研究記事、後半に現役を中心とした車両解説が据えられています。
前回の東京メトロ特集の刊行は2005年3月だったから既に11年以上も経ってしまいました。前回は副都心線がまだ開業しておらず、工事の進捗状況が記されていました(まだ13号線と称していた)。表紙は半蔵門線の8000系と08系だが、当時の最新鋭は東西線の05系(13次車)で、5000系が風前の灯火、という状況でした。
前回は営団地下鉄からの民営転換直後で、当時の課題は都営地下鉄との経営一元化でした。対談(奥義光常務取締役鉄道本部長×今城教授)でも取り上げられていたのだが、今回は全体に渡ってほとんど触れられていませんでした。東京都の方が都知事が代わったばかり、しかも五輪会場に豊洲市場と問題が山積していて、どうやら今すぐ一本化、という訳にはいかないようです。その上で株式上場も期待されているとは思うが、いずれも五輪の後の話になりそうです。JR九州よりも圧倒的に経営状況は良いはずだが。
今回の対談(山村常務取締役鉄道本部長×今城教授)の中では、設備投資額が新線を建設していた頃を上回るという点が目を惹きました。「東京メトロプラン2018」では20018(H30)年度までに4,200億円を投資、3路線同時建設時でも年間1,000億円強だったそうだから、単純計算で1.4倍になります。後述されているように、銀座線や東西線でかなり大規模な改良工事が行なわれているし、日比谷線の置き換えもあるので、そこで相当投資が膨らむのでしょう。
ホームドアに関しては、九段下の一件があって計画が加速する事になるかと思うが、対談ではその辺については触れられていませんでした。出しにくいか。なお、日比谷線の虎ノ門新駅については全く触れられていません。この後もそうです。
輸送と運転 近年の動向 平成20年度が副都心線開業で急激に伸び、その後は震災で一時落ち込むが、この数年は微増、という所。
各路線の輸送人員のグラフが興味深い。どの路線も基本的には副都心線開通前後の2007(H19)~2008(H20)年度に一旦ヤマがあって、その後震災の2011(H23)年度に落ち込むが、近年は震災前のヤマを上回る程の利用があります。千代田線が2007(H19)年度、丸ノ内線が2013(H25)年度に急激に利用が伸びたが、前者は副都心線開通、後者は副都心線と東急東横線の相互直通開始が影響してるのは間違いないです。他の鉄道もそうだろうが、メトロは特に他線の動向が直接影響する部分が大きくなるようです。
輸送改善を目指した改良工事の現状 この記事を見て痛切に思うのだが、今の日本は完全に東京一極集中。地下鉄だけ見てもそう感じる。他都市だと、「将来の輸送力増強」に備えて長いホームは広いコンコースを造っておいても未だに持ち腐れになっているケースが少なくない(大阪市営千日前線が典型)のに、東西線は未だに大規模な工事を行なわなければならない。南砂町ってそんなに利用者が多いのか?と思ったが、2015(H27)年度では62,257人もいる。木場も他線接続がないのに76,130人いて、東西線(特に東側)は大変な路線だと思う。
車両総説 この後の個別研究(6000系)などでも感じた事だが、今のメトロ車両は明らかに、
「年功序列」ではないなあ
と。千代田線が典型で、20年そこいらしか走らなかった6035Fや06系があっさり消えた一方、6002Fが45年以上走ってまだ現役なので。7000系もそういう傾向があります。今のメトロは、新しい古いではなく、
VVVF制御か否か
で淘汰の順序が決まってきているような気がします。
無論メトロ以外のJRや大手私鉄(特に東急)でも見られる傾向だが、メトロの場合は単一の路線の中で起こるので、よりそのような印象を抱きます。
第2の職場で働く元東京メトロ車 皆純粋な通勤形で、仕様が若干特殊、その上東急などからも良好な中古車が多数出るためか、国内の鉄道では熊本電鉄と長野電鉄、(カラーにはないが)銚子電気鉄道だけになりました(台車などの部品単位ではもっと出回っているが)。昨今はむしろインドネシアへの輸出が、趣味的にも、一般的にも注目されているところでしょう。
地下駅の歴史と設計思想 昨今の地下鉄 … に限らず新しい駅の大半は、ホームを島式とするのが普通のようです。地下鉄の場合は、特に最近の路線は深くなるので、建設コスト削減の意味で、島式にする事が多いとされています。
ただ、「旅客の流れが時間帯により一方向に偏るような駅では島式ホームが有効」(東京都交通局のハンドブックから)だそうで、この通りの旅客の流れが続くなら良いが、反対方向も当初の思惑を越えた輸送量になると、駅によっては相当な混乱も発生する事になります(地下鉄ではないが、私がよく利用するJRの駅も、ラッシュ時にはそういう傾向が出る)。乗降数だけではなく、線路配置(特に折返し列車用の引上げ線を設置する場合)にも影響される所だが、相対式にした方が良かったのではないか、と思われる駅もいくつかあると思います。特に地下だと、ホームの拡幅も地上ほど簡単にはやれず、木場もそれ故に、何年もかかる大規模な工事を行なわなければならなくなっているわけだし。
(なお、リニア地下鉄で横浜市営グリーンラインが抜けている)
東京地下鉄 路上出入口のバラエティ 実は今回、この記事が一番興味深く読めました。
私は営団時代末期に全部の駅の写真を撮った事があり(だから副都心線の駅だけ写真がない)、今回これを機に改めて写真を引っ張り出してみました。
地下鉄の地下駅は他の普通の鉄道と違って、線路・ホームはもちろん、駅施設(窓口や改札など)も、基本的には地下に収まる事になり(本郷三丁目の例外がある)、だから「名駅舎」と呼べるものはない。地上への出入口を分散して配置するが、それ故地域のランドマークとしては、機能しにくい部分があろうかと思います。その点は不幸か。私も撮影時にはやや苦心した部分でした。出入口だけ撮っても個性が出せないので、背景で工夫したものです。他の都市でも同じだが。
無論本文中で記されているとおり例外も多いが、それでも基本的に同じ構造のコンクリ造りで、パリやブダペストなど見かけたような、鉄柵のオシャレな出入口は見かけない。正直素っ気なく、殺風景と言えなくもない。ただ、歴史的な背景もあるでしょう。銀座線がまもなく90周年と言っても、大半の路線は戦後、それも高度経済成長期、都心にニョキニョキコンクリ造りの高層ビルが建ち並び始めた頃の開通で、欧州のような歴史的なレンガ造りの建物なんてほぼ無いわけだから、むしろコンクリ造りの出入口の方が、背景にマッチしたのかもしれません。新しい路線だと、南北線とか、都営大江戸線のような、意匠に工夫を凝らした出入口も出てくるのだが。
その意味で、銀座線のリニューアルが、地上の出入口にまで影響を与えるのか、どんなデザインが出てくるのかは、ちょっと興味が持たれると思います。
最後に、車両プロファイル&データファイル。
前回特集以降では5000系・06系が消滅し、01系・6000系が風前の灯火。10000系・13000系・15000系・16000系・1000系の「10000シリーズ」がデビューし、在来車ではVVVF制御化が進行中、というのが現在の流れでしょうか。
13000系(今日先行デビュー)のデータを初めて見ました。20m車だが、諸元表を読むと、幅が03系より5㎝、他の路線の20m車より7㎝も狭い。日比谷線内の急カーブに対応したのだろうが、ホームとの間隔は大丈夫なのか?特に東武線内に直通した時に気になる。写真を見る限り、車両側に特に対策は施されていないようだが。正面のオーナメントは、個人的にはやや中途半端だと思う。
改めて1000系の外観、特にフロントは良いデザインだと思うのは、昨今の新型車両の表情がややキツク感じられたり、奇をてらった感があるように思えるからかも知れない。カラーリングがラッピングなのは正直複雑な心境になるのだが。
東京メトロは、当然2020(H32)年の東京オリンピック・パラリンピックが最大の課題で、オフィシャルパートナーとなった事でもあり、相当数力を入れてくるのは間違いない。特に外国人の利用が、既に現状で相当数に上るので、ハード・ソフトの両面で解りやすいシステムを提供する事が求められます。
車両面で言うと、「大企業」とはいえ何でもかんでもとはいかないだろうが、路線によって多少格差が出てきているような気がします。特に副都心線7000系は最古参が1974(S49)年製で、未だに首振りの扇風機が残っています。計画からすると他路線(特に日比谷線)の置き換えが最優先になりそうで、相互直通する他社と比較しての見劣り感が、しばらくは残る事になり、ちょっと気がかり。
南北線は、恐らくは東急目黒線が相鉄直通線へ直通運転する事になるはずなので、まだ6年先、という事になったが、そろそろ対策を考えなければならないかも。
それと、外国人のみならず我ら日本人にもだが、構内が相当複雑な駅が多く、特に乗り換えで利用しづらい部分を感じます。構造上仕方が無い部分もあるが、混雑緩和を図る意味でも、こちらの方でも投資を行なって、乗り換え利便性の改善を図る必要があるのではないでしょうか。
しかし何のかんの言っても、他の外国の地下鉄と比較しても、東京メトロ(に限らず、日本の地下鉄はどこも)は車内も駅も明るくてクリーン、車体の落書きもないし、勝手に車内で演奏をやっては銭をせびる輩も居ません。運行も(ラッシュを除けば)正確、外国の方々にも好印象を与えるのではないでしょうか(決してお世辞ではない)。この良い部分を大いに生かし、さらに向上させる施策が採られる事が望まれます。
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《今日のニュースから》
22日 糸魚川市で大規模火災 4万㎡・約150棟消失
23日 新商業施設「ハマテラス」 石巻市女川駅前にオープン
糸魚川の火事は、ともかく人的な被害が出なかった事は何よりだったと思います。性格は違うがメキシコでは花火工場が大爆発を起こして30人以上が死亡しているそうだし、この手の火の事故は、これまた恐ろしい…。
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