№739 夜行列車の未来像 2

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 前回は、走行距離が1,000㎞を越えるような長距離では、夜行列車の復活・存続は原則的には難しいと書きました。
 ただし、適正な距離・所要時間であれば、まだ利用が見込める区間は多いと思います。
(前回では、寝台主体では700~800㎞で所要9~10時間程度、座席主体では500~600㎞で所要7~8時間程度としました)
 ではこの線に沿って残された夜行列車はどう改善すべきか、そして魅力的な列車としてアピールするにはどうしたら良いか、先日乗車した<あけぼの>をモデルにして考えてみます。

〈あけぼの〉においては、ダイヤはまずまず(本当は下りが30分遅くなると、秋田が7時台になってちょうどいいかなとは思うが)と思われ、最大の課題は車両になるでしょう。
 現在<あけぼの>で使用されている24系客車は、国鉄時代の1980年代頃に製造されているもので、少なくとも30年以上は経っており、特に東北方面で運用されている車両は雪などの影響で一層老朽化が進んでいると思われます。
 また、アコモデーションも個室改造が行われている車両もあるものの、全体的に国鉄時代をそのまま引きずっていて、それこそ昨今の外部のデザイナーを起用してインテリアなどをトータルに向上させている車両と比較して、明らかに見劣りします。
 従って見た限り、色々な面で少なくともあと2~3年程度しか持たないだろうと思われ、後継車両の早期開発が望まれる所です。
 最近のJRでは車両の寿命が尽きかける所で、「乗客の減少」を理由に夜行列車をどんどん廃止している訳ですが、ここで発想を転換し、需要を後追いするだけではなく、新幹線のように新型車両を導入する事で、需要の積極的な喚起を考えても良いのではないかと思うのです。
 といっても前回書いたとおり、富裕層向けの超豪華列車は、一般的な鉄道リピーターの獲得にはつながらない(と思う)し、まして<あけぼの>程度の距離・走行時間では宝の持ち腐れなので、もう少し現実的な線を狙ってみます。
 後継車両は電車でもよく、<ひたち>からリタイヤしつつある651系の走行装置をリサイクルして車体は新製、<サンライズ>的な車両にするのもアリでしょう。
 システムは若干古いものの、夜行だから130㎞/h出す必要はないし。
 しかしここでは、せっかくEF510-500をわざわざ新調した事もあるのだし、一応新型客車を開発した上での置き換えを想定します。

1.客室はA・B寝台とも一応個室が中心となるだろう。ただし現在の「シングルDX」「ソロ」の如く全部一人用としては、夫婦やカップルには利用しづらい。
(先日の<あけぼの>も、夫婦の利用が割と目立つと思えた)
 なのでA寝台個室は1人⇔2人共用で、予約に応じて変更できるようにする。
(無論料金面も、2人の場合は1人使用より1人あたりで割安にする)
 B寝台は、「ソロ」⇔「デュエット」間の模様替えが簡単に出来る構造が開発できると良いのだが。
 付帯設備としてはオーディオやパーソナルTVも良いのだが、どの道チャンネル数が限られるし、昨今はスマホやタブレット端末の普及もあり、あまり利用されないだろうと思う。
(TVをLIVEで受信できるなら良いが、トンネルが多くて難しい)
 むしろPC用のコンセントを全個室に設ける方が現実的。本当は無線LANに対応できると良いが、在来線ではどうだろうか?

2.一方で開放型のB寝台も、グループ客を中心にある程度は需要があると思われる。しかし一般的な寝台車としては時代遅れになっているのも事実で、もう全て「ゴロンとシート」化した方が良いのではないか。欧州の「クシェット」と同じ考え方だ。
(必要なら寝具は有料でレンタルする事も考えられる)
 またはよりリーズナブルな利用、夜行高速バスへの対抗で<サンライズ>の「ノビノビ座席」的なタイプ、さらにはかつての<なは><あかつき>の「レガートシート」の導入も考えられるだろう。そうすれば比較的短距離でも(例えば高崎~酒田とか)利用しやすくなる。
(座席主体の比較的短距離の列車だと、この設備が中心となるだろう)

3.「ソロ」の利用で思ったのは、就寝前・起床後の身の置き所が不自由だという事。狭いし(ある程度やむを得ないが)、構造的にも昼間の長い時間の滞在には向いていない。気分転換という意味でもフリースペースのロビーが欲しい。<カシオペア>のように電源車に設ければ良く、上り列車だと後方の展望も売りになるだろう(といっても昼間の時間は短くなるが)。
 供食設備に関しては、上野出発後の「食堂車や車内販売はありません」というアナウンスは侘しさを余計募らせ、マイナスなイメージを与える。ただかといって食堂車やもちろん、売店的な物であっても、乗務員とは別の人員の配置が要求される設備は、今となってはコスト(特に人件費。バイトには頼れない)の面で難しいだろう。
 また日中の乗車時間は今以上に短くなると思われ、むしろ乗る前、降りた後の駅での飲食設備を充実させる方が現実的かもしれない。羽後本荘のような地方都市では難しいが。
 代替策として、ロビーに飲料や軽食の販売機を設置する。新幹線「Max」にだってあるのだから。一部の宿泊特化型ホテルで見られるような、セルフサービスによる無料のコーヒー・日本茶のサービスがあっても良い。

 それで料金面なのですが、<あけぼの>の上野→羽後本荘は特急料金2,830円+B寝台料金6,300円=合計9,130円。
 鉄道ではある程度やむを得ない部分があるとはいえ、乗車券(片道8,510円)も必要な事を考えると、やはり少々高すぎる感は否めません。
(高速バス〈ドリーム鳥海号〉は9,170円)
 車両の更新にかかるコストも考えると難しいかもしれないけれど、せめて特急料金2,500円+B寝台料金5,500円、合計で8,000円位には抑えられないでしょうか。
 もう少し割安感が出せれば、安全性がさらに高くて定時運転が十分期待でき、外部と隔てられた個室のベッドに横になれる、高速バスにはないアドバンテージも多いのだから、新型車両による居住性向上も加味して夜行寝台の利用の向上が期待できるのではないでしょうか。
 もちろんそれには、新幹線と同等の積極的なPR作戦も必要になりますが。

 PR作戦と書きましたが、今回は〈あけぼの〉の代替を想定していますけれど、加えて上野~青森〈はくつる〉の復活は検討できないでしょうか?
 東北本線の上野~青森は700㎞強、廃止前の〈はくつる〉も9時間程度で走れており、盛岡や八戸の存在もあるので〈あけぼの〉以上に需要は見込めるはずです。
 東北復興のシンボルとして位置づける事も可能でしょう。
 今のJR東日本の戦略はどうも新幹線(特にE5系)偏重の感があり、ある程度は仕方がないけれど、是非新型夜行寝台特急を開発し、新幹線とセットで売り出して欲しい。
 東北エリア内なら、JR東日本一社だけの判断で実現可能なはずです。

 そして、新型夜行は東北だけでなく、東京・大阪を起点とした大都市間の幹線で復活・新設させる事も、どうか考えて欲しい。
 さすがに地方路線や北海道・九州内では難しそうですが。
(利用者の減少に加え、夜間の要員の確保の面で)
 具体的には寝台特急は〈サンライズ〉の維持に加えて東京~広島・青森、大阪~熊本・長崎・秋田。
 座席主体列車では千葉・東京・横浜~京都・大阪・神戸、東京~金沢・盛岡、大阪~小倉・博多・新潟。

 本数が極端に少なくなった事もありますが、昨今のJRグループはどうも新幹線や地元の短距離の特急偏重で、(夜行に限らず)長距離の特急の新規開発やPRにはほとんど無関心だと言わざるを得ません。
 JR九州あたりは、「ななつ星」的なクルーズ列車もいいのだけれど、利用者層が幅広くなる一般的な長距離夜行列車でこそ、新しい可能性を示してもらいたいという感もあります。
 外野が何を言っても結局はJR各社の胸先三寸にかかっているわけですが、それを承知で今一度、夜行列車の「商品」としての価値を見直し、復活を検討して頂きたいと思いますし、その価値は十分にあると思っています。
 新幹線にも旅客機にも高速バスにもない、夜行列車の良い所はいっぱいあるはずですので…。

 申し訳ありませんが、コメントは受け付けない事にしています。この記事について何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。
 また、何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。

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