№122 鉄道ピクトリアル2010・1月臨時増刊号 【特集】小田急電鉄(鉄道図書刊行会)

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「鉄道ピクトリアル」は、いくつかある鉄道専門月刊誌の中でも老舗で、かつ専門的な内容が多いので、ファンの中では、一番地味に映る雑誌かもしれません。
 「ピクトリアル」では年に1~2回程度、大手私鉄・大手公営事業者を中心に1者を特集した臨時増刊号を発行しており、2010年1月は小田急の特集でした。
 1999年12月以来11年振りです。
 昨年末には既に書店に並んでいましたが、購入したのは今年になってからで、取り上げるのは大分遅くなってしまいました。
 ここでは、各記事を横断して、小田急そのものに関わるいくつかの点について気がついた事、考えている事を記してみたいと思います。
 上の2枚は、この20年の間に小田急を走った、あるいは走っている系列の中で、私的にこれが好きかな、というものを掲げてみました。
 上はロマンスカーNSEで、展望室や「走る喫茶室」を備えた11連接構造は、後のロマンスカーの基本となりました。
 デザイン的にも、古きよき昭和40年代の雰囲気が良く出ていると思います。
 下は数を減らしつつ今も現役の5000系(5200番台)。
 端正な「小田急顔」と、側面の1段下降窓がベストマッチで、小田急の通勤車の最高峰ではないでしょうか。

★ 各駅の乗降人員
 私にはどちらかと言うと、情緒的な記事もいいのですが、こういうデータ的な部分に興味を引かれる部分が多々あります。

【ベスト10】
1位 新宿 491,631人  2位 町田 291,952人  3位 代々木上原 223,176人  4位 藤沢 153,515人  5位 登戸 147,118人  6位 本厚木 146,668人  7位 下北沢 135,225人  8位 海老名 135,012人  9位 相模大野 121,338人  10位 新百合ヶ丘 120,516人
 以下大和、中央林間、成城学園前、湘南台…と続きます。
 代々木上原と下北沢は、ノーラッチで他線に乗り継ぐ乗客の方が多いと思われますが、まあ納得の順位だと思います。
 基本的に、東京都下~神奈川県東部の他線接続駅で乗降が多いという傾向がはっきり出ています。
 11位以下ではありますが、江ノ島線の中央林間と湘南台の乗降客が急激に増加し、10年間で中央林間が約15,000人、湘南台はなんと32,000人も増えています。
 湘南急行→快速急行が、在来の急行停車駅の南林間(34位)・長後(31位)を差し置いて停車駅としたのも当然でしょう。
 本厚木は他線の接続がありませんが、何でも小田急の広報誌によれば、JR以外の鉄道において、他線との接続がない駅で一番乗降が多いのは本厚木だそうです。

【ワースト10】
70位 足柄 3,038人  69位 南新宿 3,083人  68位 はるひ野 5,771人  67位 蛍田 5,850人  66位 東北沢 6,876人  65位 富水 7,003人  64位 黒川 8,265人  63位 世田谷代田 8,566人  62位 五月台 9,220人 61位 栢山 9,554人
 以下開成、本鵠沼、参宮橋、和泉多摩川…の順。
 神奈川県西ローカルと多摩線に加え、東京23区内の駅が3箇所あります。
 南新宿がブービーというのも意外に感じられるかもしれませんが、新宿の中心部まで歩いていける位置だし、JRや大江戸線の代々木駅もすぐそばですから。
 東北沢や世田谷代田も、自線に加え、京王井の頭線の駅が近くで、そちらを利用する住民も少なくないはずです。

 こうしてみると、5位の登戸にロマンスカーが今だ停車しないというのは、もはや不自然だと思います。
 小田急は、「ロマンスカーは箱根へのアクセスがメインなので、停車させる考えは今の所ない。」としていますが、南武線の沿線から箱根等に呼び込む、という策もあるはずです。
 また、隣の向ヶ丘遊園に「さがみ」が一部停車している事を考えると、やはり矛盾です。
 今はまだ改良工事が残っているので仕方ない部分もありますが、それが完成した時点で、ロマンスカーの停車が望まれる所です。

 一方、その向ヶ丘遊園駅は、遊園が閉鎖した事、快速急行や多摩急行が通過している事もあって、もはや急行停車駅としては失格、通過駅にせよ、という意見がWebの世界ではかなり幅を利かせているようです。
 しかし、それでも今なお64,000人強(18位)の乗り降りがあり、明治大学・専修大学のキャンパスや大規模な団地も控え、小田急バスの有力なターミナルともなっています。
 例えば、登戸駅付近の区画整理事業が進み、大規模なバスターミナルの整備も行われて向ヶ丘遊園駅発着路線がロスなく登戸駅前に乗り入れられるというのなら、急行停車廃止の意見もわかります。
 しかし、その実現が相当先という現状では、急行の全面的な通過には賛成できません。
 もう少し、周辺の状況を丁寧に観察してから、列車の停車の是非について語るべきではないでしょうか。

 それにしても、新宿から遠く離れた、最下位の足柄でさえ3,000人強の利用者がいるとは、やはり小田急は全線規模で乗客が相当多い鉄道だと思います。
 関西だと、大阪に近い本線の駅でも、もっと乗降が少ない駅もありますから。

★ 東北沢~和泉多摩川(あるいはその先)複々線化
 
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 長年の懸案になっている東北沢~和泉多摩川の複々線化工事が、なかなか完成しません。
 2004年までに梅ヶ丘~和泉多摩川は何とか完成したものの、肝心の東北沢~梅ヶ丘の完成は早くて2013年度、つまりあと3~4年はかかる事になります。
 本来なら1997年、つまり13年前には全体が完成していなければならなかったのです。
 できる所から、という事で、まず喜多見~和泉多摩川が1997年、梅ヶ丘~喜多見は2004年に高架で完成しています。
 しかしこの間、騒音問題等で大規模な訴訟が発生し、大々的に報じられたのはご記憶かと思います。
 小田急としてもこの間、利用者向けの複々線の高架のアピールは相当苦心したようで、「急行と各駅停車が双方走りながら行うので、スピードアップになる。」という、苦し紛れの言い方をしていました。

 一方、向ヶ丘遊園の先、新百合ヶ丘まで複々線化の構想があるようですが、沿線からは早くも警戒する声もあるようです。
 私見ですが、西武新宿線が一時急行線を地下に建設して複々線化するという計画を持っていたので、それなら小田急もそうすべきだ、できるはずではないか?という考え方があったのではないでしょうか。
 生方良雄氏(この方は小田急OBらしいが)は、住民は真に何が必要か判断してもらいたい、地下化は施設維持のためのエネルギーは馬鹿にならない、小田急の高架化の騒音低減技術(私が聞いた所では、電波を出して走行音を打ち消すらしい。)は相当なものだから、通勤客のためにも高架化でやるべきだと主張しています。
 ただ、事はそう単純ではないはずで、沿線の日照権やプライバシーの問題(電車から覗かれる)、郊外だと高架線の景観の問題もあるし、丘陵地帯を切り開くことになるのでそちらの環境面はどうか?という事も考えなければならないでしょう。
 訴える側にもキナ臭い部分が多々あったようだし、都が訴訟の相手になって小田急は当事者にはならなかったとはいえ、やはり裁判沙汰になった事自体は重く受け止めるべきでしょう。
 もっとも、じゃあ地下線なら万々歳かと言うと、やはり工事費が馬鹿にならなくなるし、地下は地下で営団半蔵門線建設時のような用地買収の問題も起こるかもしれない。
 それに、下北沢の計画を見ると、これで良かったのかなあという印象が拭えないのも事実です。
(緩急結合が出来ないし、特に急行⇔井ノ頭線の乗換が実に面倒くさくなりそう。)
 一番いいのは、鉄道は高架でも地下でもなく地べたを走り、交差する道路が全てアンダーパスになる事、なのでしょうが…。
 地下に上下2層のホームを設け、相模原線も地下で立体交差させようとする京王線調布駅の工事は、実は壮大な実験なのかも知れません。

★ 30000系「EXE」

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 ロマンスカー「EXE」の人気が今一つのようですね。
 「EXE」(30000系)は1995年、NSEの置き換えや、輸送力増強を目的として製造されたロマンスカーで、最終的に10両編成(6連+4連)7本が製作されました。
 デビュー当時として考えなければならない背景としては、箱根方面への観光客が頭打ちになる一方、通勤・通学や帰宅、それに新宿方面への買い物(小田急百貨店への買い物客だって、大事なお客様。)の足としてのロマンスカーの利用が増え、輸送力がある系列が求められていた事があります。
 車両だけでなく、ダイヤ自体もその辺を意識したものに転換が図られ、1996年には大和、1998年には相模大野・秦野に停車するロマンスカーの設定もされました。

 EXEは多様化するロマンスカーの役割を最大限担える役割を与えられてデビューしました。
 しかし、3000系「SE」(1958年)、3100系「NSE」(1964年)、7000系「LSE」(1981年)、10000系「HiSE」(1988年)と、歴代ロマンスカーが必ず受賞してきた、鉄道友の会の「ブルーリボン賞」の受賞を、EXEは逃してしまいました。
(1997年にノミネートされたが、「該当車なし」に終わっている。)
 その後の50000系「VSE」(2006年)、60000系「MSE」(2009年)がいずれもブルーリボン賞を受賞している事も、必要以上にEXEの評価を下げているように感じられます。
 生方良雄氏は「楽しさを感じさせない外部塗装のせいだ。」という結論をお持ちのようだが、本当にそうでしょうか?
 外観も、内装も、かなり力を入れたデザインだったと思いますが…。
 内装といえば、初期の車両は前部の6両と、後部の4両で座席の色を意味を持たせつつ変えていて、分割が多い小田急らしいよなあと感じたものです。

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 小田原方の6連は、「箱根の森」をイメージしたグリーン。

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 新宿方の4連(主に〈えのしま〉に運用)は、「湘南の海」のブルー。
 後に、増備車全車で採用されたブラウン系で統一されたのは、個人的には残念でした。
 本当に色のせいなら、私は乗り物の色の事など語らない方が良いのかな?

 なぜEXEが、出来はとてもいいはずなのに不人気なのか、個人的に考えてみると、
① ロマンスカーで唯一「ブルーリボン賞」受賞を逃してしまった。
 しかも、他の強力なライバルに負けたのならともかく、「該当車なし」だから…。
② 輸送力重視・モノクラスの20m車×10両編成というのが、マスプロ的に見えてしまった。
 特に小田急ではどうしても「プラスα」が求められる。それはVSEではっきりした。
③ 1999年のダイヤ改正で、特急の改札がEXEに合わせた方法に代わり、「特別な列車に乗る」という高揚感が奪われてしまった。
 それ以前は乗車口が限定され、乗車時に係員が特急券をチェックしていました。

 結果的に、JR東日本E653系〈フレッシュひたち〉や、近鉄22000系「ACE」の如く、その鉄道のフラッグシップにはなりえない宿命を背負わされていたのでしょう。
 ただ、先に書いたように、ロマンスカーの役割も観光輸送偏重だった20年前(この点は次回書く予定です。)とは異なり、多様化しています。
 観光輸送に特化したVSEのような、ホスピタリティあふれる高級サービスももちろん大いに評価されますが、一方で、ホームで特急券を買って気軽に飛び乗れるEXEのような列車だって、今のロマンスカーにはありだと思うのです。
 ただ、一時期の〈サポート〉のネーミングは、さすがにどうだったかなあとは思いますが。
 その意味で、2004年改正時の〈えのしま〉の大幅削減は残念でした。
 快速急行の設定で余裕がなくなったからかも知れませんが、湘南新宿ラインのグリーン車への対抗というなら、1時間ヘッドで残せなかったかと思います。
 あるいは湘南台に停めてもいい。
 泉区の相鉄いずみ野線、地下鉄ブルーラインの沿線住民が利用してくれるかも知れません。
 相鉄沿線在住時代、15時10分発の〈えのしま〉(EXE)を好んで(大和まで)利用して帰宅した事が多かった事を思い出します。
 「全線歩き乗り記」の根本幸男氏は、(座席だけだろうけれど)VSEよりEXE派みたいですね。

★ その他
1.高座渋谷駅の曲線ホームは、今思えば確かに不自然。
 ホームの前後に比較的長い直線があり、100m程度の直線ホームなど無理せず造れたでしょう。
 他に渋沢や富水あたりもそうだったはず。
 小田急の駅のホームは相対式を基本にしている点で高い評価を得ているけれど、意外な一面を見た気がします。
2.小田急にも夏季専用ダイヤというものがありましたか。
 ダイヤ(午後の部分)を見ると、江ノ島めがけて送り込みの回送列車が続々仕立てられるのが目立ちます。
 しかし、私が社会人になった頃には、既に専用のダイヤはなく、一部の急行の延長運転が行なわれるのみでした。
 JRの房総地域や京急も夏季ダイヤがなくなって久しいですが、やはり電車で海水浴、というのは少なくなってしまっているのでしょうか。
(江ノ島線の場合は通常ダイヤでも本数が多くなった事もあるでしょう。)
3.「鉄道自殺はやめてもらいたいですねえ。」…ごもっとも!!
 泊まり明け2日続けてなんて酷すぎる。
4.甲種回送のEF65は、新松田駅の構内にまで入ってきます。(私も見た事がありました。)
 構内では小田急の運転士がEF65を運転しますが、その研修は稲沢まで行って行なうのですね。
 新鶴見では出来ないのかな?
 
 次の臨時増刊号の特集は、1997年7月号が最後の阪神を期待したい所。
 阪神なんば線開通・近鉄との相互直通開始という話題もあるし、何より前回の特集から13年も開いてしまっています(大手私鉄に限ると一番開いている)ので。


※ ところで既にご存知の方が多いでしょうが、この記事を書く直前になって、ロマンスカーのLSE及びHiSEが「一部の車両の不具合」の発見により、全編成運用を離脱する事態が発生しました。
 小田急の公式HPの告知の感触からして、運用復帰までかなり時間がかかりそうです。
 このためロマンスカーの運用が大幅に変更になり、VSEが多摩線〈ホームウェイ〉、MSEも江ノ島線〈ホームウェイ〉の運用に入っているそうです。
 原因は明らかにされていませんが、特定の車両の故障というレベルではなさそう。
 連接構造そのものに起因している部分があるかも知れません。
(長野電鉄の「ゆけむり」(HiSE)も、「臨時検査」で運用を離脱しているそうですし。)
 展望室つき編成が運用されない事によるイメージダウンもありますが、短期的には残された編成で運行を確保できるのか心配ですし、もし列車の構造が原因だとしたら、長期的には車両計画や営業政策に重大な影響を与えかねません。
 ロマンスカーあっての小田急なので、早急な原因の究明と発表が待たれます。

 申し訳ありませんが、コメントは受け付けない事にしています。この記事について何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。
 また、何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。(名前は公表しません。)



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