№2810 バスジャパン・ハンドブックシリーズV114 しずてつジャストライン

しずてつジャストライン 赤バス色.jpg
「バスジャパン・ハンドブックシリーズV114 しずてつジャストライン」、また刊行から日がかなり経ってしまいました。
 今回は、データ整理・分析は割と早くできていました。しかし、4~5月は個人的にゴタゴタしてしまって、書くヒマがなかった、というのが正直なイイワケ。

 しずてつジャストライン(長いので以下原則「JL」)は、2003(H15)年刊行のNEW39以来、21年ぶりになります。同社は静岡鉄道のバス部門が2002(H14)年に分社・独立したもので、「NEW36 京成電鉄」までは、静岡鉄道として予告されていました。その次の「NEW37 ジェイアールバス関東」から、現在の社名になっています。
 表紙デザインは、NEW39では、当時普及し始めていたノンステップ新色があしらわれていて、これがJLの標準のカラーとして定着してきたのだろう、と思っていました。しかし2022(R4)年の新車からは「赤バス」が復刻、最初は他の旧塗装復刻色と同じ扱いだろうと思っていたのが、その後新車の大半はこのデザインに回帰しています。だからなのか、今号ではこの「赤バス」色が表紙にあしらわれています。
 ただ、このカラーは前後扉が標準だった頃のデザインで、赤の部分の縦になっている所は、後部もドアがありました。だから、今の前中ドアデザインでは、中ドアが目立たなくなっている。特にしずてつでは乗車が中ドアなので、後部の縦の赤の部分を中ドア部に配置し直すか、あるいは若干アレンジをする事を考えても、良いのかも知れない。
 写真は小鹿〔営〕のエアロスターだが、左にEV・右にFV、狙って配置したのか!?

◆ 静鉄バスの車両たち
「しずてつジャストライン」という社名は文字にすると長いからか、以降の記事のほとんどで、「静鉄バス」と表記している(同社のWEBもそうなっている)。
 NEW39の時点では静鉄小型バスがあり、貸切専業は「しずてつジョイステップ」とひらがなだった。この両社が合併した現在の静鉄ジョイステップ(以下JS)は、焼津・掛川の両営業所に再編されている。逆に乗合は焼津〔営〕が廃止になり、JL8営業所+掛川(以下KB)・秋葉(以下AB)両バスサービスという体制になっています。

1. グループ4社全体で605台は、21年前は759台だったそうだから、約1/5の大幅な減少。
 特に貸切は、21年前の215台(うち廃止代替20台)→88台だから、かなり減少している。JLの貸切車は、うち7台は型式から見て、乗合型式の貸切登録と思われる。KB・ABには貸切車はいない。
 一方で高速車(県内の高速道を経由する特急車は高速車に含める)は、21年前の26台→56台と倍以上に増えている。東京など、静岡県外に出ていく路線が増えたからだろうか。
 今回、初めて「教習用」という用途が別に計上された。これまでのシリーズでも、貸切オンリーと思われる事業所に乗合登録が1台ポツンと在籍している事業者があって、何に使っているのだろうと思っていたのだが、他社もやはり教習用だろう(お客さんを乗せないなら白ナンバーでも良さそうなもので、緑ナンバーとしているのはなぜだろう)。
 グループ全体の用途別割合は、乗合75.74%・高速9.24%・定観0.33%・貸切14.33%・教習0.33%。そうは言っても、貸切車の方が高速車よりまだ多い。貸切がグループのバス事業の屋台骨となっている部分は、まだ高そうだ。

2. 乗合車の割合は、JL92.16%、KB2.40%、AB5.45%で、当然ながら本体の割合が圧倒的に高い。
 JLの事業所別では、鳥坂が18.68%、西久保が15.13%。この両営業所は清水区、「平成の大合併」前の清水市域に存在する。また、藤枝市にある岡部〔営〕は13.48%で、鳥坂、西久保、丸子(静岡市駿河区 13.95%)に次いで高く、旧静岡市域の外の営業所が、JLの乗合事業のかなりの部分を支えているのが面白い。実際、静岡駅から比較的遠方に向かう路線が、少なくない。
 最少は浜岡〔営〕の6.62%で、静岡市から離れたローカル路線が大半だから当然だが、一方で掛川に入って、KBと並ぶ場面も見られる。
 高速車は、相良〔営〕が19台と最も多い。営業所内では33.93%で、1/3を占める。静岡駅と相良・浜岡を結ぶ(特急)静岡相良線が中心なのだろう。静岡駅・新静岡発着路線も、特定の営業所が集中して運行を受け持つ、のではないようだ。
 JSの貸切車は、焼津〔営〕が8割近くを占めている。JSの営業所は、21年前は静岡と清水に営業所があったものが、現在は2か所とも静岡市外に置かれている。静岡市からの「観光バス」需要は、案外少ない?

3. 平均車齢は、2023(R5)年を0年として計算しました。
 乗合車は、グループ全体で14.90年と、相当経年化が進んでいる。JS14.78年・KB15.73年・AB16.52年で、やはりエリア西部の分社が高い。
 JSも全事業所で平均10年を超えていて、一番若いのは小鹿〔営〕の10.04年。最も経年化しているのは浜岡〔営〕の22.07年。中古導入の存在もあるが、年式は結構バラつきがあって、2005(H17)年式が73台、未だに乗合全体の15.90%を占めている。その前の2004(H16)年式が32台(6.97%)、2002(H14)年式は37台(8.06%)で、2002~2005年の4年間の合計が165台、乗合車全体の35.94%になる。一方、その直後の2006(H18)年はわずか3台。2010(H22)年式は28台とまとまって存在するが、次の2011(H23)年式は5台のみ。20世紀の車両が46台残存し、全体の10.02%と1割以上。特に1995(H7)年式が18台とまとまって残っている。さらにそのうちの半分は浜岡〔営〕に所属している。「静岡22き」「浜松22か」が合計16台ある。逆に、2021(R3)年以降は、鳥坂・小鹿・唐瀬各営業所とAB以外には新製配置がない。コロナ禍の影響と思われるが、ABのエルガ新製配置は注目できる。
 最古参はABに残る1992(H4)年式3台で、元神戸市営のキュービックが含まれているので、今後ファンの注目を集める事になるだろう。
 高速車は8.54年とさすがに若い。岡部〔営〕が3台しかないが4.07年と最も若い。西久保〔営〕が10.63年と意外に経年化している。最古参は丸子・相良・浜岡各営業所に1台ずつ在籍する、2005(H17)年式。
 貸切車は13.83年だが、JSに限ると11.63年。焼津〔営〕10.41年に対して掛川〔営〕は15.92年と偏りがある。JLは18.61年で、小鹿〔営〕は28.00年と相当経年化しているが、3台とも乗合から転用の、1995(H7)年式ブルーリボン。純粋な「観光バス」となると、旧静鉄小型バスから移籍した、1999(H11)年式のセレガFC。JSの最古参は、焼津〔営〕の2002(H14)年式セレガ。

4. 乗合車のノンステップ率は、グループ全体では71.02%。JLでは、唐瀬〔営〕91.11%・西久保〔営〕89.06%・小鹿〔営〕80.39%で、この3所が80%を超えている。逆に浜岡〔営〕が35.71%・相良〔営〕は50.00%で、やはり地方部が低く、KB(63.64%)・AB(56.00%)より低い。もっともKB・ABは台数自体が少ないし、大半が中古導入。

5. グループ内の移動を除いた中古導入は22台あるが、うち6台は学校からの移籍で、スクールバスを引き受けた、という事だろう。それ以外は10の事業者からの移籍があるが、神奈中と臨港が3台ずつ、川崎市営と京成が2台ずつ、あとは1台ずつのみで、割合としては高くはない。21年前は割と多かった旧神戸市営バスは、現在は前述のASのキュービック1台のみ。
 低公害車は、CNG車はなくなった。ハイブリッドも1台のみ。近年になってFCが2台、EVが1台入っている。
 21年前は「ノンステップ車の投入で日産ディーゼル車が急増した」と記されていて、この時点では乗合31台・貸切8台という勢力だったが、現在は高速車も交えて64台。かつてドレクメーラのダブルデッカーがありながら、21年前は存在しなかった外国車は、EVでアルファバスが導入された。

6. 「近年の導入は『赤バス』に回帰している」と書いたが、それ以外の旧塗装復刻車も、6種類・41台も存在する。これは、日本の全バス事業者でも最多、ではないだろうか?ほとんどが静岡市内に路線を持つ営業所の配置だし、高速車も近距離の特急路線だから、静岡駅前で1~2時間も見ていれば、全部見られるのではないか?と思えるほどだ。

しずてつジャストライン 最新車.jpg
 なお、刊行後の新車導入を確認しています。一番上のエアロスターもそうだし、この高速車もです。

◆ 静鉄バスのあゆみ
 それにしてもこの「銀バス」、神奈川県に住む者からすると、臨港バスの旧塗装も連想させる(臨港バスの帯色はもっと紺色していた)。
 この21年間で見ると、やはり「新静岡セノバ」の開業が、グループ全体としても最も大きかった出来事になったのは、間違いない(その写真があれば良かったかな。この後の「紀行」で乗り場だけ写真があるが)。
 鉄道にも少々テキストが割かれているが、現在も残る静岡清水線以外は、見た事も乗った事もない。どの路線ももう少し頑張って、近代化で来ていればあるいは…、という感もあります。静岡市内線以外は、東海道新幹線開通の頃はまだ残っていたけれど、遠州鉄道もそうだが、軽便鉄道規格では存続も、近代化も難しかったのかも知れない。

◆ 静鉄バスのいる風景
 ローカル支線は、この数年で急速にデマンド運行が増えているようだ。日中だけ、という路線もあり、最近は東京でも見られるようになったが、あるいはその先鞭なのかもしれない。

◆ 天女と家康と次郎長と
 21年前の紀行は、種村 直樹氏による、清水(三保の松原)→御前崎という旅程で、1泊2日だったが、バスの乗り継ぎは1日で終わっていました。当時運行されていた特急〔東海1号〕で清水入り、種村氏は「軽特急」と評していた(では、現代の〔湘南〕や〔らくラクはりま〕あたりは何と評するのだろう)。途中旅程が狂ってタクシー代行になり、いちご狩りは10分弱で終わってしまったとか、割とドタバタしてしまったようです。翌日の御前崎はじっくり散策できたようだが。最後に「『日本列島外周気まぐれ列車』の旅で、2010(H22)年頃に必ず訪れる」と締めくくっていたが、残念ながら種村氏によって実現する事は、ありませんでした。
 今回の谷口 礼子さんの紀行は、種村氏とは逆に西→東となり、藤枝から始まって、やはり三保が終点になる紀行でした。距離が短めだし、ずいぶんゆったりした乗り継ぎで、2日目の昼過ぎには終点の三保水族館に着いていました(その後観光船に乗船)。やはり大河ドラマの真っただ中(紀行は、ドラマでは関ヶ原の戦いが決着した直後だった)、静岡は徳川 家康で盛り上がっていた時期だったか。終点近くの御穂神社は、種村氏も訪れていました。
 清水の次郎長は明治を生きた実業家、とは意外に感じた人、他にも多いはず。渋沢 栄一と生きていた時期が被っているし(両者が会った事はなさそうだが)、ひょっとしたらこの人も、いずれは大河ドラマの主人公に?
 紀行と直接は関係ないが、「アイドリングストップ中は音楽がかかるのが静鉄バスのサービス」、というのは初めて知った。そうだったっけ?6年前に美和大谷線を乗り通した事があるが、気づかなかった。ディーゼルエンジン車以上に停車中が静かなEVだったら、もっと有効になるかも。

◆ 終点の構図 登呂遺跡
 21年前は、先に「いる風景」で走行写真があった、安倍線の有東木でした。梅ヶ島温泉への路線から分岐する支線の終点で、初発と、静岡発最終は、地元在住のドライバーが専属で乗務すると記されていました。現在は、平日は5本(朝の2本以外は途中が終点)・土休日は2本のみになっています(単純な折返しのみで、駐泊はしていない模様)。
 登呂遺跡への路線は、有東木とは打って変わって、日中も24分間に便があります(静岡駅東口から12分間隔で出発する石田街道線で、東大谷行と交互に運行される11系統)。本線から分岐して1区間だけの短い支線の終点で、すぐ近くには駿河区役所や地元紙の本社とか、「登呂コープタウン」を名乗る住宅地もあるから、遥か昔の古代のロマンだけを期待していくと、少々期待はずれ、となるのかも知れない。テキストに出てくる小学生のように、歴史の勉強をするために訪れる場所、というのが今の「登呂遺跡」なのだろう。

◆ 静鉄バスの路線エリア
 基本的なエリアには変わりはない。おおざっぱに言えば、静岡市を中心とした、薩埵峠と天竜川にはさまれたエリア、という所だろうか。磐田が、遠州鉄道との境となっている。「自主運行バス」の路線も含まれている。
 しかし、山間部への路線が相当少なくなってしまった。大井川鉄道の井川駅を経由して畑薙第1ダムへ行く路線も、横沢から先が廃止になっている(現在は予約制・直行の「南アルプス登山バス」として、今年は7月13日~8月18日運行)。また、菊川市内も相当路線が減ってしまっている。一方で島田から大井川の左岸を行く路線(島田市自主運行バス)が、大井川鉄道の家山駅に路線を延ばしているのが目に付く(一方で2路線が他事業者に移管)。
 遠州灘に近い路線を乗り継ぐ事で、エリアの東から西へ、静鉄グループのバスだけで乗り継いで行く事が可能。なお、静岡県の外へ出ていく一般路線はない。
 高速路線は、名古屋へ行く路線が最初から存在しないのは、少々意外かも知れない。が、新幹線がある上に、東名高速を走る国鉄→JRの高速バスが頻発、静岡ICにも停車するので、新規に路線を作るほどの需要は見込めない、という判断だろうか。

 静鉄バス、というか鉄道も含めた静鉄グループは、静岡駅・静岡市中心部を中心とした駿河エリアでは、公共交通はほぼ独占と言えるので、今後も静岡県、というより東海地方を引っ張っていく公共交通のリーダーとして、発展して頂きたいと思う。当然ここもドライバー不足というのは大変なはずで(休止路線も出ているくらいだから)、静鉄はかなり早くから、ドライバーの募集は積極的にやってきた所(一般のニュースでも取り上げられた事がある)だが、なんとか実を結んで、運行の維持につながって欲しい。
 中心部の幹線的路線はまだしも、地方のローカル路線の維持はやはり厳しく、近年はデマンド形態に移行する路線もチラホラ見られるようになってきた。中心部へ行くには乗り換えが必要になるのがどう評価されるかだが、これが路線の維持につながればと思う。また、路線図を見ると「サイクル&ライド」の駐輪場が結構あって、大半は営業所だったり、バスの終点だったりだが、中間のバス停付近に整備されている所もある(登呂遺跡終点の近くの登呂南バス停にもある)。バス利用を繋ぎ止める有効な手段として、機能してくれるだろうか。
 カードシステムは、ハウスカードのLulucaと、関西のPiTaPa(これは意外だった)を導入しているが、静鉄バスに限った事ではないが、PiTaPaは今後、どうなるんだろうなあ?入手にはクレジットカードの紐づけが必要で、今後他地域でタッチ決済が本格的に普及すると、立場が微妙になりそう(事業者毎に設定しているプレミアで生き残りを図るのか)。
 高速バスは、コロナ禍はやはり痛かったか。京都・大阪線は現在特定日のみの運行だし、前述のように、藤枝渋谷線も運行規模が縮小されている。ドライバーの確保の問題もあるし、当面は静岡・清水~首都圏の路線に資源を集中する事になるのだろうか。静岡~甲府路線は現在土休日のみ運行だが、中部横断道が延伸してスピードアップができているので、あるいは増発・平日運行の目もあるのか。
 あとは、車両ではかなり経年化している部分があるので、特に20世紀の車両は、安全運行の面からも、早急な置き換えが求められるのではないか。低公害車は、今後はどの方向に向かうのか。EVか、FCか。ハイブリッド車の再導入もあるのか。
 いろいろな面で大変な状況に置かれている静鉄バスではあるが、繰り返しになってしまうけれど、東海地方最大手のバス事業者の一つであるだけに、先頭を切って頑張って頂きたいと思います。

 ところで、次の刊行は、未だに具体的な事業者の発表がありません。前号・西武バスの時点では今月の刊行が予告されていたV115(北海道または九州の予定だった)は10月下旬に延期になり、関東または九州の事業者になる予定との事。どの事業者もいろいろ大変なので、取材先選定も難しいのだろうか。

 当ブログでは直接のコメントは受け付けません。何かありましたら、引き続き本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。
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