№2765 年鑑バスラマ2023→2024(ぽると出版)

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「年鑑バスラマ 2023→2024」、今年も先月発売になっていたが、まただいぶ遅くなってしまいました。

 今年の和田編集長の「巻頭言」、いきなり「10年で壊れる国産バスを作ってください」と、自ら「暴論」と称する挑戦的な見出しで、しかも4ページに渡っている。バスラマ創刊から30年・200号、この間の日本のバス業界の低迷・衰退をジャーナリストとして見てきた、そのいらだちが込められているような気がする。
 まずはドライバー不足問題から始まるが、この問題そのものに関しては、個人的には「何を今さら」という部分を感じる。そもそも10~20年くらい前には、バスのコストの大半は人件費が占めると指摘されていて、だから平成の世になると、「鉄道と同じ賃金体系ではやっていけない」となって私鉄のバス事業分社が始まり、さらには地域での分割も進んだ(これは最近になって再統合の動きも見られるが)。実際の運行管理を分社に任せる例も少なくなかった。公営バスは「民営と比べて非効率な運営」が非難され、民営移管が特に地方都市で進められた。21世紀にはついに政令指定都市でも完全民営化が行われるところが出てきて、大阪市では地下鉄まで民営化された。そこまでいかなくても、営業所単位で運行を民営に委託する所は今でも少なくない。これらは全て、「コスト削減=人件費の圧縮」(以外の理由もあるだろうが)を最大の目的として進められたものでは、なかったのか。だから今になって労だけでなく使の側も「賃上げだ」と叫んでみても(もちろんそうなればいいが)、過去の経緯がキチンと検証された上での発言・あるいは交渉、だろうか?
 本題の「バス寿命10年」論だが、技術的な事は分からないが、言いたい事は分かる。ギアチェンに手間暇かかるモノコック車と、近年のAT車では操作性が段違いだろう、というのは、私でも何となくは分かる。ここにはないが、女性ドライバーの積極的な登用、という点でも、環境の改善…これは運転そのものだけではないが…は有用だろう。鉄道もそう。昔のSLの運転は重労働過ぎてとても女性には任せられなかったが、現代は無人、とまでは行かなくても、TXなぞボタン操作だけで高速運転が可能になり、運転士はオペレーター的な存在に変わりつつある。むろんバックアップシステムの構築は必須だし、運転士にも異常時の対応能力が求められるが、日常の乗務という業務の面では、劇的な改善、とは言えないだろうか。古いままだと、その改善もままならん、という事なのだろう。
 なお、「耐用年数が短い鉄道車両が走り回っている」というが、そうか?JR東日本の209系は確かにそういうコンセプトを持って生み出されたが、当初の想定を大きく超えて、30年になる今に至るまで、京浜東北線から房総地域に舞台を移しつつも大多数が健在だ。西武鉄道は大手私鉄なのに、昭和生まれの小田急4000形を購入する。制御装置は全面的に更新されているが、結局鉄道は、よほどの事情がなければ、走行路線のロケーションにもよるが、在来線では30年程度は走るものとして設計・製造されるのが、一般的ではないだろうか。
(この点で一番心配なのは、「路面電車」。未だ戦前製の車両が相当数走っている現状は、変えなければならない)
 また、大半を大手事業者の中古で賄う地方のバス事業者は、「10年サイクル」の結果、大手からの中古車の購入が不可能になった場合、自力で新車の購入が可能だろうか?また、新車両のいきなりの新技術に対応できるだろうか?
 となると、車両の変革を前提とするなら、業界の構図そのものを、(実際のバス運行の部分の外まで含めて)全面的に変える必要もありそうだ。それは、単なる路線の再編成とか、会社の吸収・合併程度では済まなくなるかもしれない。そうなると、なおさら行政、ひいては国家のレベルでの支援、に留まらない、抜本的な運輸行政の革新、という所に行きつくのではないだろうか。
 となると、これは車両だけの話にはならなくなり、根本的には、「バス業界の地位の向上」という所まで持っていかなければなるまい。それがないと、いくら賃金だけ上げても、結局は少ない人手の取り合いに負けてしまうだろう。公道上でのバスの優先順位の向上、実際の運行上のドライバーの負担の軽減など、考えなければならない事はいくらでもあるし、車両の質もそうだが、やはり一般的な国民世論をもう少し巻き込んだ、バスの在り方の議論が欲しいと思う。現状は単に「バスの便が大幅に減ってしまった。生活に困る」のような地域の課題というレベルでオロオロ、で終わっていて、公共交通をどう守るか、というか、どう生活のサイクルに組み込むのか、クルマをやめてバスなど公共交通にシフトする事は可能ですか、そういう議論が、自治体とか、国とか、そう広いレベルで欲しいと思う。その中で、利用者を惹きつけられ、ドライバーの労働条件の改善にも役立つ、変革されたバス車両をどのように調達し、日本全国にいきわたらせられるか、そういう話も出てくるのではないだろうか。やや話が飛んでしまったかも知れないが、とにかく広い範囲の議論が欲しい。そこから「10年スパン」はともかく、バス車両の進化も生まれるのではないだろうか。

2023 バスハイライト

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 昨年もEVの導入が国内各地で進んで、去年のモビリティショーで発表されたいすゞエルガEV、レトロフィット改造の西鉄バスも含めて4ページになった。大型車はBYDに加えてEVM・アルファも加わって、中国製EV同士の競争が始まった事になる(オノエンスターは、大型車は一般路線への導入はまだないようだ)。富士急行グループは先行したBYDに加えてアルファも導入したが、大型でEVを2メーカーから購入するのはたぶん初めてで、今後は複数社導入の事業者も増えていくのだろうか。何がメーカー決定の決め手となるだろう。発電・充電システムも含めた、メーカーのサポート体制が左右しそうだ。外国メーカー導入自体が初めて、という事業者が少なくないはず。北は北海道の札幌圏まで見られるようになったが、もっと北の極寒地まで広がるだろうか。BYDはK8をフルフラットにして、既に各地で走り出しているようだが(京急バスでも間もなく、横須賀で走り出す)、こうなるとエルガEVは、国産と言えどもどこまで食い込めるのか、少々心配にもなってくる。
 あとは、ワゴン車によるオンデマンドスタイルのバスが広まりつつある事も挙げられるだろう。それも田舎だけでなく、東京23区にまで走り出しているが、我々も、「バス」の概念をちょっとばかり変えていく必要があるのだろう。

 第27回バスラマ賞は西鉄バス。レトロフィット改造やバイオ燃料試行など、環境面での取り組みが評価された。

国内バスカタログ 2023→2024
 この一年で発売中止になったモデルはない。予告されているBYDの中型EV・J7は、同社の公式WEBによると、全長8,990㎜・全幅2,300㎜で、これはエルガミオ・レインボーと全く同じ数値だ(オノエンスターの9m車は若干幅が広い)。来年秋の納車を予定するとしている。カルサンe-JESTの営業デビューはいつ、どこになるだろうか。「ツバメマーク」なんてあり得る?

海外バスカタログ 2023→2024
「海外」と謳っているが、今回は台湾・フォックストロン以外は全て欧州のメーカーだ。当然皆EVで、2連節に加えて3連接のモデルまであるのが、(EVでなくても)日本人にはオドロキでもある。一方で、ダブルデッカーのEV、特に市内バスで、というのは、ないのだろうか。先日のブリュッセルのショーでは中国製EVダブルデッカー(UK向け左ハンドル車)が出展されていたようだが、欧州と言えども単車・連節車ほどの需要はないのか。やはりUKなどくらいになるのか。

1990~1994年 読者が見た 全国のバス達
 平成の世になってまだ間がない、という頃になるが、まだモノコックも相当数存在していて(先日飯能で公開された国際興業のBU04も、まだ譲渡前で東京・埼玉地域を走っていた)、あくまで趣味的、ではあるが、面白い時期だったと言える。
 車両そのものもそうだが、事業者自体がなくなったり、あるいはもう存在しない路線の行先を掲げたりしている画像があるのも興味深い。川中島バスは車両も日野+川重の組み合わせだが、長野~上田間に1時間毎くらいで運行されていた、名残りと言える。今や路線そのものがなくなって、上田と長野はバスでの直接のつながりがなくなってしまった。むろん当時のバス業界も大変だったが、今に比べればまだ良い時代だったよね、そんな空気が感じられます。

平和な時代の物見遊山
 ほぼ全部パンフレットだが、省営自動車の塩原線案内が興味深い。関谷から矢板駅への路線がある他、塩原温泉~鬼怒川温泉間が「未開通路線」と記されている。後に季節運行路線として実現するが、民営化と前後して廃止になってしまった。矢板路線もそう。また、上三依(會津西街道)の方への路線も想定されていたように読めるが、今の野岩鉄道に相当する鉄道路線の構想は既にあったので、鉄道の開通を見込んでいたのだろうか?
 旧満州の観光バスのガイドも興味深いが、旧日本軍の侵攻の結果なので、「平和な時代…」と言っても、果たして…の感はあります。

 来年はやはり、いすゞエルガEVが年鑑のカタログに並ぶのか、これが最大の焦点になると思われる。そうでないと、中国勢の台頭の前に、「時すでに遅し」になってしまう危険性もありうる。日野と三菱ふそうの統合は先送り、の発表もあり、日本のバスメーカーにとっては正念場の1年となるだろう。あとはついに「2024年問題」を迎えて、車両面以外の運行に、どれだけの影響が及ぶのか。既に各社でこの先廃止だの減便だのと言うリリースが相次いでいて、大変心配されるところ。
(それは何も日本だけでないようで、ドイツではこれが環境保護活動組織まで巻き込んだ労働争議にまで発展していると聞く)

 200号を迎えた、今後のバスラマ誌に望みたい事。過去に書いてきた事の、しつこいくらいの繰り返しになってしまうが。

① バス業界の外部への、積極的な情報の発信。欧州のバスショーは、展示されるバス車両数で圧倒されるようだが、それ以前に「バス専門のショーが欧州では成り立っている」という事が、我々バスファンや業界内部以外の日本の人々に、どれだけ知られているだろうか?(それは、読者の意見にもあったようだ)前述のように、日本のバスの再発展のためには、業界外部の建設的な視点・意見がどうしても必要になるが、そのための海外の情報が、国内の一般にはほとんどないのが実情。先日もNHKでバス・タクシーの問題が提起されて海外の事例も紹介されたが、「対処療法」の提案のみで、バス事業そのものをどのような枠組みで支えていくのか、それに対して世論はどう感じているのか、という視点があまりなかったように感じられた。これがないと、一般はそもそも意見の出しようがない。「バステク」は、業界外部の一般の新聞・TVなどのメディアに、門戸を開いているだろうか?「巻頭言」も、バス業界・バス趣味の枠を超えて、もっと一般向けに広く発信してみては、どうだろうか?(受け入れてくれるメディアがあるかどうかだが?)

② 関連して、海外取材は特に欧州がほとんど(以前はブラジルの連載もあったが)だが、その他の地域の事例はどうだろう。中国製のEVが日本に大挙進出している昨今だが、そのおひざ元の中国メインランドの大都市のバスシステムそのものは、どのような仕組みになっているのだろうか。また、アメリカ(USA)が案外盲点になっている。「クルマ社会の権化」のUSAでさえ、少なくとも東西両海岸の大都市ではバスを含む公共交通が機能していて、ボストンにはBRTと呼べるような路線も存在した(ホノルルは、少々レベルが落ちるかな…?)。どちらも国土が広大だし、特に中国は体制が異なるので取材はむずかしいかもしれないが、どこかでやって欲しい。

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