普通列車への依存度高まる JR東海在来線
アプト式鉄道 日本では27年ぶりの復活
アプト式鉄道 日本では27年ぶりの復活
夜行列車 相次いで廃止
静岡県を東西に貫く東海道本線は、日本を代表する鉄道の大幹線であるが、旅客輸送においては、東海道新幹線の開通以降、長距離輸送の比重は低下していった。
それでも平成が始まった時点では、東京~九州・山陽・山陰・四国・近畿地方を結ぶ寝台特急・急行が毎日10往復運行され、臨時列車の設定もあった。静岡県内でも熱海に全列車、沼津・富士・静岡・浜松に一部列車が停車していた。この他、東京~大垣間には夜行の普通列車が設定され、特に「青春18きっぷ」のシーズンには大勢の乗客がごった返し、夜行ながら途中駅からでは座席にありつけない事が、少なくなかった。
しかし、21世紀を迎える頃から、夜行列車は退潮の道をたどる。まず、1993(H5)年までには、寝台特急の食堂車が全列車休止となった。1994(H6)年12月に〔みずほ〕が廃止、1998(H10)年7月には、〔出雲〕1往復が〔サンライズ出雲〕に立て替えられ、〔瀬戸〕改め〔サンライズ瀬戸〕と併結される形となって削減されている。1999(H11)年には〔さくら〕と〔はやぶさ〕の併結運転開始、21世紀に入って、2005(H17)年には〔さくら〕〔あさかぜ〕が全廃、〔はやぶさ〕の併結相手は〔富士〕となって、寝台特急は〔サンライズ瀬戸・出雲〕を含めても2往復体制と、20年足らずで大幅な減少となった。国鉄時代末期には個室寝台・リニューアルされた食堂車の導入などのてこ入れも行われていたが、航空輸送や、高速化が進む新幹線に太刀打ち出来なくなったのである。
2006(H18)年には客車〔出雲〕、2008(H20)年には急行〔銀河〕、そして2009(H11)年には〔富士〕〔はやぶさ〕が廃止となり、これで東京を発着、静岡県を経由する「ブルートレイン」は、全て廃止となったのである。鉄道業界の時代の節目として、一般にも大きく取り上げられる事となった。
電車寝台特急の〔サンライズ瀬戸・出雲〕は、2016(H28)年3月の急行〔はまなす〕廃止以降、日本で唯一の定期夜行列車となった。個室中心ながら、「ノビノビ座席」の設定などエコノミー嗜好の乗客も取り込んでおり、時間帯の良さもあって、堅調に推移している。静岡県内では熱海・沼津・富士・静岡・浜松(下りのみ)停車している。
165系が使用されていた東京~大垣間の夜行普通列車は、1996(H8)年3月より、〔ふじかわ〕〔伊那路〕と共用の373系に置き換えられ、一部区間全車座席指定の快速〔ムーンライトながら〕となった。しかしこちらも21世紀に入ると、休暇シーズン以外の利用の減少が目立つようになり、定期列車は2009(H21)年3月廃止、シーズン中に設定されていた臨時列車のみの運行となった。その臨時列車も、平成の末期には運行期間が縮小されつつあり、存続が懸念されていた。
JR東海在来線 地域輸送が主体に
昼行列車では、伝統の愛称を受け継ぐ急行〔東海〕が、東京~静岡間2往復残されていた。また、身延線直通の急行〔富士川〕も、165系で運行されていた。1996(H8)年3月、これらの置き換えのための新特急車373系が導入され、同時に特急に格上げされた。〔富士川〕は〔ふじかわ〕と改称している。同時に飯田線の臨時急行も、定期特急〔伊那路〕に格上げされ、2往復に増発された。373系は東京~静岡間の普通列車への運用も見られた。しかし〔東海〕は2007(H19)年3月改正で廃止、新幹線開業前の準急時代から静岡県内を走り続けたその名は、55年で幕を下ろす事になった。
御殿場線には、小田急線から直通する急行(小田急線内は連絡急行)〔あさぎり〕が新宿~御殿場間で運行されており、小田急のロマンスカー3000形SE車が乗り入れていた。老朽化もあり、1991(H3)年3月には20000形RSEに置き換えられた。JR東海も371系も導入、相互乗り入れの形で特急に格上げ、同時に沼津まで延長された。沼津延伸は、小田急グループによる伊豆半島西海岸観光ルートの整備の意味もあり、沼津で接続する小田急系列の東海バスには、RSEと371系、両方のカラーが施された。しかし利用は伸びず、車両のハイデッカー構造のバリアフリー対応の問題もあって、2012(H24)年3月を持って沼津発着は廃止、再び御殿場発着に短縮、車両も小田急の60000形MSEに統一されている。RSE及び371系の一部車両は富士急行に譲渡された。〔あさぎり〕の名は、2018(H30)年に〔ふじさん〕と改められた。
この結果、静岡県内でJR東海が運営する在来線を走行する優等列車は、〔サンライズ〕の他は、373系の〔ふじかわ〕と〔伊那路〕、JR東日本の185系で運行され、伊豆箱根鉄道駿豆線に直通する〔踊り子〕、そして〔ふじさん〕のみとなった。快速の設定もほとんどなく、「ホームライナー」が東海道本線の一部区間で運行されているのみで、普通列車への依存度が極めて高い。なお、静岡より東側では東京直通列車が、民営化以降もJR東日本との相互直通の形態で多数残されていたが、21世紀に入り大幅に整理、2012(H24)年まで運行された373系の列車を除くと、JR東日本車両による沼津折り返しの9往復のみとなり、他は熱海で乗り換えの形態になった。
飯田線は、静岡県内区間を中心に乗降が極少の「秘境駅」が多く、近年では鉄道ファンの来訪が多くなっており、「秘境駅」のみに停車する臨時急行の運行も行われている。佐久間駅構内には1991(H3)年、「佐久間レールパーク」がオープン。飯田線などで活躍した旧型電車やELなど、国鉄時代の貴重な車両が多数展示されていたが、名古屋市の「リニア・鉄道館」オープンに先立ち、2009(H21)年11月1日に閉園、18年の歴史に幕を下ろしている。
東海道新幹線は、1992(H4)年運行開始の〔のぞみ〕は静岡県内の停車はなく、毎時1本静岡・浜松に、その他一部が熱海・三島に停車する〔ひかり〕が、今でも静岡県内の東海道新幹線、ひいてはJR東海の最優等列車であり続けている。
JR東日本が運営する伊東線は、国鉄時代より多数の観光特急が設定されていた。1990(H2)年、〔スーパービュー踊り子〕が運行を開始。専用車251系は観光需要に特化した、リゾートを連想させる仕様となった。ダブルデッカー車・ハイデッカー車で構成され、先頭車の展望席や、グループ客を意識したボックスシート、幼児向けのプレイルームなどを備え、歴代の伊豆特急の中で、最もハイグレードな列車となった。
この他にも各種臨時列車の運行が多数あり、近年では成田空港特急E259系を使用した〔マリンエクスプレス踊り子〕が設定されている。また、箱根~伊豆間を回遊する観光客の誘致を狙い、常磐線〔スーパーひたち〕用651系を改造した観光列車「伊豆クレイル」が、小田原~伊豆急下田間臨時快速として運行されている。2018(H30)年5月、JR東日本は、全車グリーン車の新型特急列車の運行を発表した。2020(R2)年3月の運行開始を予定している
普通列車は、伊豆急行との相互直通の形態を取っていたが、近年では朝夕に東海道線直通列車が設定されている他は、伊豆急行の車両によって運行されている。
県東部の私鉄 観光に通勤に
伊豆急行は、東急グループが伊豆半島東岸の観光開発のために建設した鉄道であり、開業当時から伊東線との相互直通運転を行い、東京からの優等列車を多数受け入れていた。海岸の展望を考慮した大胆なデザインとアコモデーションで話題を集めた「リゾート21」は最大で5編成となり、一時はトンネル区間で天井に星空を投影する「ロイヤルボックス」車両(グリーン車扱い)の連結もあった。東京直通の臨時特急〔リゾート踊り子〕に使用された事もある。
しかし、一般の利用者は減少傾向にあり、21世紀に入ると、開業時からの100系、発展形の1000系は相次いで廃止、元JRの113・115系を経て、2004(H16)年からは元東急から8000系の譲渡を受けている。セミクロスシートに改造された上、ワンマン運転対応となった。「リゾート21」も2編成が引退、1編成は「黒船電車」、1編成は「キンメ電車」に改装されている。最終の「アルファ・リゾート21」は2017(H29)年、観光列車「THE ROYAL EXPRESS」に改造された。横浜~伊豆急下田間で、募集旅行の列車で運行されている。
伊豆箱根鉄道駿豆線は、特急〔踊り子〕の直通の他、1991(H3)~1998(H10)年の間、新造車両7000系を使用し、座席指定車両を連結した快速列車が設定されていた。2018(H30)に開業120周年を迎え、記念として3000系1編成に、三島~沼津間で運行されていた軌道線の塗色を復刻している。近年はアニメ・ゲーム等とのタイアップが多い。
岳南鉄道は、かつての主力だった貨物輸送が2012(H24)年に全廃、路線廃止の意向が表明された事もあった。結局富士市の公的支援もあって存続が決定、2013(H25)年には岳南鉄道が設立した岳南電車に運営が移行した。富士急行のグループであり、2018(H30)年には、富士急行線から車両が移籍した。最近は「夜景遺産」に認定された工業地帯を夜間に走る「夜景電車」など、観光需要に活路を見いだそうとしている。
静岡鉄道静岡清水線は、並行するJR東海道本線の増発により速度面で見劣りするようになり、1996(H8)年には急行運転を取り止め、駅間距離の短さを生かして、沿線の需要をこまめに取り込む戦略に出た。1994(H6)年に導入した磁気カードは、地方私鉄では初のストアードフェアシステムとなった。2011(H23)年10月、新静岡駅の再開発により、ショッピングセンター「CENOVA」がオープン。同時に行われたダイヤ改正で、平日朝方のみ急行運転が復活している。2019(R元)年5月、前身の駿遠電気設立から100周年を迎え、記念事業の一つとして2016(H28)年には、43年ぶりの新形式・A3000形がデビューした。一編成毎にカラーが異なるマルチカラーとなる。
路線そのものが観光資源 大井川鐵道
SL列車の動態保存で知られている大井川鉄道だが、2000(H12)10月には大鉄技術サービスに合併され、同社は大井川鐵道と改称して、鉄道事業を引き継ぐ事になった。大井川本線のSL列車は、1996(H8)年より原則毎日最低1往復の運行に増強。2007(H19)年には日本・タイ修好120周年を記念して、C56 44号機がタイ国鉄時代の姿を再現して運行された。2014(H26)年より、「きかんしゃトーマス」を模した列車が運行されている。
一般の電車は南海や近鉄、京阪の特急車両などを購入し、旅客の誘致に努めた。しかし、沿線の人口は稀少で元々一般の利用が少ない上、SL列車も利用の減少があり、近年は普通電車の大幅な削減や、十和田観光電鉄からの単行運転が可能な元東急車の購入など、運営コストの削減を迫られている。
井川線は、長島ダムの建設に伴い、1990(H2)年10月に一部区間でルートを変更、新ルート上のアプトいちしろ~長島ダム間には90‰の急勾配が存在するため、車両の歯車と、線路間のラックレールをかみ合わせるアプト式を採用した。旧信越本線碓氷峠区間の旧ルートが1963(S38)年に廃止になって以来、日本では27年ぶりの復活となった。同区間は電化され、アプト区間専用の補機ED90型が導入されている。同時に井川線には「南アルプスあぷとライン」の愛称が付き、アプト式鉄道そのものを観光資源として売り出している。大井川本線・井川線とも、近年は頻発する自然災害により、たびたび長期の不通の発生に悩まされるようになった。大井川本線では2003(H15)年8月~2004(H16)年3月にかけ、金谷~福用間が7ヶ月の間不通になり、復旧工事の過程で、五和~神尾間に横岡(仮)駅が、全線再開まで設置された。最近では井川線・閑蔵~井川間が、2018(H30)年7月~2019(H31)年3月の10ヶ月にわたり不通となっている。
天竜浜名湖鉄道は、平成の世になって間もない1989(H元)年3月、全線の特殊自動閉塞化が完了し、タブレットが姿を消した。1996(H8)年3月改正では、2往復の快速列車が設定されたが、3年後には1往復に削減され、2001(H13)年3月改正で廃止された。2000(H12)年3月からは、遠州森~三ヶ日間でトロッコ列車〔そよかぜ〕が運行されたが、こちらも7年後には廃止になっている。沿線には駅舎など、開業当時の面影を残す施設が数多く残されており、2011(H23)年1月までに合計36施設が、国の有形登録文化財に指定された。天竜二俣駅構内の転車台や扇形車庫では、見学ツアーも催行されている。沿線が大河ドラマの舞台となった2017(H29)年は、臨時快速の運転などで賑わった。
遠州鉄道が2004(H16)年に導入したICカード「nice-pass」は、日本で初めて、鉄道・バスの相互利用を可能としたICカードとなった。浜松市中心部の連続立体交差化が進められ、第2期工事は2012(H24)年11月までに、事業区間が全て完成した。車両は1000形と、1999(H11)年デビューのVVVF車2000形に統一され、吊り掛け駆動の車両は、2018(H30)年4月の運行を最後に引退した。
次回はデータ編です。
当ブログでは直接のコメントは受け付けないので、何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。
当ブログ上からでは発表できない緊急の事態が発生した時は、本体でお知らせします。
《今日のニュースから》
7日 大型クロマグロ漁獲枠 中西部太平洋で15%増加 正式合意
この事は、近年三崎港のマグロも観光資源にしている京急あたりには、何か良い影響が出るものですかね?