中央東線特急 高速バスと熾烈な競争
積極策に転じた 富士急行鉄道線
積極策に転じた 富士急行鉄道線
高速バスに対抗 長距離列車は新型特急にシフト進む
民営化により中央東線を運営する事となったJR東日本が直面したのは、中央自動車道路の影響だった。新宿~甲府間でも、高速バスが20~30分間隔のフリークエントサービスを提供しており、特急〔あずさ〕も高速バス対策が急務だった。
民営化直後の1987(S62)年12月に183系「グレードアップあずさ」編成が導入され、翌1988(S63)年3月改正では、甲府始終着列車を増発した上で、〔かいじ〕として独立させていた。この時点では8往復の設定だった。その上で、〔かいじ〕の利用に限定した格安企画乗車券「かいじきっぷ」を設定、料金面で高速バスに対抗した。〔あずさ〕は利用出来なかったものの、往復で普通乗車券より安く利用出来る、破格の乗車券だった。2001(H13)年まで発売、その後も各種企画乗車券が発売されている。
1993(H5)年に制御式振子装置を備えた新型車両E351系が速達タイプの〔あずさ〕に導入され、翌年12月改正より、〔スーパーあずさ〕を名乗る事となった。対長野県を意識した列車だが、新宿~甲府間は、最速1時間26分で結ばれた。
翌1995(H7)年には2次車もデビュー、5編成が出そろったが、費用対効果の点では今一つで、2001(H13)年からの本格的な183系置き換えには、E257系が導入される事になった。側面には「武田菱」をイメージしたデザインがあしらわれ、山梨県を強く意識したデザインになっている。〔あずさ〕でデビューした翌年に〔かいじ〕にも導入、183系や189系、波動用の165系を順次置換え、12月には一部の臨時を除いて、〔あずさ〕〔かいじ〕の、E257系への置き換えを完了している。2012(H24)年改正で〔かいじ〕は12往復にまで成長し、〔スーパーあずさ〕〔あずさ〕と合わせて、新宿~甲府間では約30分間隔運転を行っている。一部は東京駅発着としている。
中央東線は観光・行楽地を多数控えている事から、臨時列車の設定も数多く行われた。中でも1996(H8)年より設定された横浜~甲府間の〔はまかいじ〕は、横浜線初の特急として、土休日を中心に、東海道線特急〔踊り子〕と同じ185系を使用して、長期に渡り運行されていた。2往復設定されていた時期もある。
また1993(H5)年より、臨時快速〔ホリデー快速ビューやまなし〕が運行されている。湘南ライナー用に製造された全2階建ての215系を活用し、東京~小淵沢間で土休日を中心に運行。その後も運行区間や停車駅の変更を行いつつも、現在に至るまで、行楽の足として定着した。この他、武蔵野線などへ直通する列車など、多彩な臨時列車の設定も見られた。
平成の世になった時点では、特急型を使用した夜行急行〔アルプス〕があり、登山シーズンには165系の臨時列車も多数設定され、さらにB寝台車を連結した客車列車が運行された日もあった。また、新宿発上諏訪行の夜行普通電車が残存していた。国鉄時代末期まで運行されていた新宿~長野間列車の名残であったが、1992(H4)年3月改正で、甲府→上諏訪間が廃止。1994(H6)年3月改正では、東京~大月間の中央線快速に建て替えられる形で、廃止となった。〔アルプス〕は1997(H9)年10月改正で上りのみ長野始発となったが、2001年(H13)年12月改正で廃止、下りも翌2002(H14)年12月改正で廃止となって、山梨県から定期の夜行列車が消滅した。しばらくは臨時快速〔ムーンライト信州〕が後を継ぐ事になる。
普通列車は、横須賀線同様のクリーム+紺色をまとった115系、通称「山スカ」が長らく使用され、富士急行への直通列車にも使用されていた。また大月までは、東京からの快速が直通、201系を運用していた。1990(H2)年からは、富士急行への直通運用も設定されている。
中央東線 特急・ローカル共世代交代完了
2015(H27)年になり、E351系の後継車両として、E353系がデビューした。振り子式のE351系に対して、空気バネ式の車体傾斜装置を採用している。約2年の試運転の後、2017(H29)年12月改正で、〔スーパーあずさ〕に導入、翌年3月の改正で、置き換えを完了した。
さらに〔あずさ〕〔かいじ〕のE257系も置き換えて車種の統一を図る事になり、2018(H30)年12月より導入を開始、平成最後の改正となった2019(H31)年3月改正で、中央東線の定期特急は、E353系への置き換えが完了した。同時に全車指定席となり、新たな着席サービスを提供している。また、停車駅の整理・見直しが行われ、〔あずさ〕と〔かいじ〕の役割分担がはかられた。富士急直通〔富士回遊〕も、同時に運行を開始している。E257系は東海道線〔踊り子〕への転用が予想されている。
臨時列車についても整理が行われ、長年運行されていた横浜直通〔はまかいじ〕、シーズン中のみ運行の夜行〔ムーンライト信州〕は、設定がなくなった。〔はまかいじ〕は、185系の老朽化や、京浜東北線のホームドア整備の事情もあった。
普通列車は、東海道線や高崎・宇都宮線から房総地域に転用されていた211系が、2013(H25)年より長野を中心に運用を開始し、2017(H29)年に115系の置き換えを完了した。2006(H18)年より進められた、中央線快速のE233系への置き換えは2010(H22)年に完了、昭和末期から山梨県にも乗り入れていた「省エネ電車」201系は、デビューから31年で、中央線から別れを告げた。E233系は2022(R4)年をめどにグリーン車を増結する事になり、各種準備工事が進められている。実現の時点で、山梨県内の普通列車の運転形態の変化も予想される。
JR最高地点を含め、JR線では唯一標高1,000mを超える区間を走り、高原列車の愛称でも知られる小海線は、山梨県側に避暑地の清里を控えている事もあり、シーズン中には多数のユニークな臨時列車が設定される。特筆は、1988(S63)~1992(H4)年に設定されていた、新宿~小海間の臨時快速〔葉っぴーきよさと〕で、165系電車を、小淵沢(通過扱い)~小海間はDD16型牽引の客車列車として直通させていた。2017(H29)年には、キハ100・110型を改造した「HIGH RAIL 1375」がデビューしている。夜間の列車では車内照明を消灯させて星空の映像を天井に投影する他、好天時には野辺山駅停車中に、星空の観察会が行われる。
一般の列車では、1991(H3)年よりキハ110系が導入されて国鉄時代からの急行型などを置き換えた他、2007(H19)年には世界初のハイブリッド鉄道車両となる、キハE200系がデビューした。
JR東海が運営する身延線は、165系の急行〔富士川〕が静岡~甲府間を結んでいた。一時期は東京方面からの新幹線接続を狙い、三島発着列車が設定されていた事もある。1995(H7)年には新型特急車373系により置き換えられ、特急〔ふじかわ〕に格上げされ、同時に1往復増発して、静岡~甲府間6往復運転となった(現在は7往復)。一般列車は2006(H14)年より313系が導入されて115系やクモハ123形を置き換え、同時にワンマン化も行われている。なお、近年は異常気象に起因する水害の被害に遭う事が多くなり、2011(H23)年9月~2012(H24)年3月にかけては、一部区間長期運休の憂き目に遭った。中部横断自動車道の新清水JCT~双葉JCT間延伸工事が進められており。2020(R2)年度予定の同区間全通後は、身延線にも影響が及ぶ事が予想される。
ローカル線転じ 国際的観光輸送で賑わう富士急
富士急行は富士山麓を中心に、富士急ハイランドを筆頭とするレジャー産業を展開する、県内屈指の大資本であるが、鉄道事業は、平成の初期までは停滞気味だった。JRから数本の普通列車の直通があり、行楽シーズンの休日には〔ホリデー快速〕の乗り入れもあったが、外は線内折り返し運転の普通列車のみであった。対東京は、自社が運行する中央自動車道経由の高速バスが主役となり、鉄道はほぼローカル輸送に徹していた。
転機となったのは1998(H10)年7月改正で、元京王1200系クロスシート車による特急〔ふじやま〕が6往復設定された事だった。2002(H14)年には、前年にJR東日本から引退した「パノラマエクスプレスアルプス」を購入して置き換え、〔フジサン特急〕としてリニューアルしている。フジサンを擬人化したキャラクターを多数配したユニークなデザインが、人目を惹いた。
21世紀に入ると鉄道事業は積極策に転じる。2009(H21)年には観光電車「富士登山電車」がデビュー、同時に下吉田駅も改装された。どちらも工業デザイナー・水戸岡鋭治氏の手によるものである。下吉田駅には2011(H23)年より、廃止となった九州ブルートレインに使用されていたスハネフ14形を展示し、「下吉田ブルートレインテラス」として公開されている。2016(H28)年には、特急〔成田エクスプレス〕が、新宿発着の定期列車を延長する形で直通運転を開始、土休日中心の臨時列車であるが、JR線からの有料の優等列車の直通は、国鉄時代末期に廃止になった急行〔かわぐち〕以来である。「フジサン特急」は2014(H26)年に元小田急ロマンスカーRSEの8000系、2016(H28)年に元JR東海371系の8500系に置き換えられた。8000系は「フジサン特急」の愛称とデザインを受け継ぎ、8500系は水戸岡氏の手によるデザインの「富士山ビュー特急」となった。以前は富士山南麓で特急〔あさぎり〕として行き交っていた両者が、今度は北麓の同じ鉄道路線を行き交う事になったのである。
シーズン中の〔成田エクスプレス〕延長運転を経て、2019(H31)年3月改正で、新宿~河口湖間の定期特急〔富士回遊〕が運行を開始した。E353系3連による全車指定席特急で、新宿~大月間は〔かいじ〕に併結される。中央線直通の優等列車は、定期列車では急行〔かわぐち〕以来、33年ぶりとなった。
近年の一連の施策は、2013(H25)年6月の富士山のユネスコ世界文化遺産の登録、前後して外国人旅客が急増している事が大きい。富士山の玄関口で富士吉田駅は世界遺産登録に先駆けて2011(H23)年に富士山駅と改称し、大幅な改装も行った。富士急では、山中湖での水陸両用バスの運行や、河口湖・西湖を周遊する路線バスの整備を行い、観光客の誘致に努めている。
2004(H16)年11月、都留文科大学駅が開業、特急の停車駅が都留市から変更となり、都留市内の代表駅となった。平成の30年間で山梨県内に開業した、唯一の鉄道新駅である。
リニア新幹線実験線に隣接する山梨県立リニア見学センターは、2017(H29)年9月、「どきどきリニア館」の入場者数が100万人の大台に達した。リニア中央新幹線の「山梨県」駅は、甲府駅の南東、甲府市大津町に建設される。
◆平成時代の新規開業駅 〔新線開業に伴わない単独開業駅〕
2004(H16)年11月16日
富士急行 都留文科大学前
◆平成時代の改称駅
1991(H3)年12月14日
東海旅客鉄道 身延線 下部温泉(←下部)
1993(H5)年4月1日
東日本旅客鉄道 中央本線 甲斐大和(←初鹿野)
勝山ぶどう郷(←勝山)
春日居町(←別田)
石和温泉(←石和)
2011(H23)年7月1日
富士急行 富士山(←富士吉田)
山梨県の歴代知事
望月幸明→(1991(H3)2月17日~)天野建→(2003(H15)年2月17日~)山本栄彦→(2007(H19)年2月17日~)横内正明→(2015(H27)年2月17日~)後藤斎→(2019(H31)年2月17日~)長崎幸太郎
令和以降の山梨県の鉄道
令和の世になった直後の〔富士回遊〕は、極めて高い利用率を誇り、2020(R2)年3月改正では、3往復に増強された。しかし、この頃から新型コロナウィルス感染禍が一気に日本列島を蝕み、渡航制限の強化により、インバウンドの利用がほぼ消滅してしまった。〔富士回遊〕は定期3往復運行を維持し続けているが、富士急行線内の特急はほとんどが運休となり、一般の列車も減便・最終列車繰り上げなどが行われた。現在も「富士山ビュー特急」は運行を継続しているが(車内サービスは休止)、「フジサン特急」「富士登山電車」は運休が続いている。
なお、富士急行は今年の4月、鉄道部門の分社化を発表した。来年4月の実施が予定されているが、先行して5月に、準備会社として「富士山麓電気鉄道株式会社」が設立されている。鉄道開業以来、1960(S35)年5月の富士急行への商号変更まで使用されていた社名である(河口湖駅前には、開業時のモ1号が静態保存されている)。実際の社名がこの通りになるかは、まだ不明。
中央東線は、定期〔あずさ〕〔かいじ〕はダイヤ通りの運行を維持している(去年の5月には一時減便・減車が発表になったが、結局通常通りの運行となった)が、多客対応の臨時列車は多数運休になった。〔ホリデー快速ビューやまなし〕は、今春3月改正で215系の運用がなくなった事もあり、設定が見られない。
リニア中央新幹線は山梨県内でも建設工事が進められているが、南アルプストンネル静岡工区の工事を巡るJR東海と静岡県の対立が表面化、JR東海では、当初予定の2027(R9)年の開業は難しくなった、としている。今春の静岡県知事選挙では、建設反対を唱えている現職の知事が再選されていて、先行きはさらに不透明になったと思われる。
平成の鉄道回顧、次回は長野県です。
当ブログでは直接のコメントは受け付けないので、何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。
当ブログ上からでは発表できない緊急の事態が発生した時は、本体でお知らせします。
爆発的なコロナ禍感染拡大で、各交通事業者等でも、感染者の報告が相次いで発表されているが、JR西日本は、七尾線(七尾鉄道部)がコロナ禍による乗務員の不足により、今日から今月一杯の予定で(前後する可能性もある)、列車の減便が行われています。特急〔能登かがり火2・9号〕〔花嫁のれん〕と、普通列車の金沢~七尾間6往復・金沢~高松間下り1本・上り2本が取りやめとなり、日中は2時間に1本程度になってしまう時間帯もあります(乗車券のみで特急自由席利用可の救済措置あり)。朝方にも影響が出るが、学校が夏休みなので、まだ何とかなるかも知れない。私が知る限り、コロナ禍が鉄道の運行に直接影響を与えるのは、昨年暮れの都営地下鉄大江戸線に次いで2例目だと思うが、他にも影響が出ている所があるのかも知れない。まずは感染者が一日も早く、日常の暮らしに戻る事が最優先だが、感染に歯止めがかからないと、同じように交通の運行に影響が出るケースが、出てしまうだろう。
《今日のニュースから》 カッコ内は新型コロナウィルス関連
18日 敦賀原発2号機データ上書き問題 原子力規制委員会 再稼働審査中断
(カンタス航空 全社員にワクチン接種義務づけ)
19日 Jリーグ浦和レッズ 懲罰適用巡りスポーツ仲裁裁判所に提訴
(相模原市小中学校106校 2学期 今月一杯臨時休校決定)
全国の感染者数が今日1日で2万5千人超と過去最多、なかなか先行きが見えなくなったけれど、そんな中、前回予告した通り、私は昨日、1回目のワクチン(ファイザー社製)の接種を受けました。体調は全く問題ないが、接種部位が今でもちょっと痛いです。でも、これでほんのわずかでも元の日常に戻れる日が近づくなら、この程度の痛み、充分に耐えられます。日本の今現在の問題はとにかくワクチンの供給体制にあるが、諸外国の例を見ると、ワクチン自体は十分確保できているのに接種を拒否する人が増加、接種率が上がらなくなってくる所が多く、これはいずれ日本でも問題になるはずです。打ちたくない人にもそれ相応の理由があるわけだが、そういう状況になった時、上で書いたカンタス航空のように、接種を義務化してしまうのか、あるいはアメリカの一部で見られたような「ご褒美」で接種を促すのか、どの方法も問題は多々あるはずだが、方法論は、近づく衆議院選挙の争点に、間違いなくなるでしょう。どのような主張が展開されるのか。