№2298 シーサイドライン・京急線 事故調査報告書公表

 2019(R元)年6月1日に発生した、シーサイドラインの新杉田駅逆走事故、同年9月5日発生の京急線・神奈川新町駅構内踏切事故について、先週18日、運輸安全委員会より揃って、事故調査報告書が公表されました。
 通常、報告書はだいたい1年をメドに出されるが、どちらも結構大きな事故だったし、運行システムにも関わる事なので、少々長くなりました。本当に簡単ではあるが、報告書及び、共に同時に公表された説明資料を読んだ印象を、簡単に記したいと思います。

京急線神奈川新町1号踏切.jpg
 先に京急線の踏切事故から行きます。この件については、事故発生直後に№2046で、印象などを簡単に書きました。
 報告書に関しては、公表翌日の19日付の朝日新聞(横浜版)がかなりかみ砕いて書いてくれているので、それも参考にします。まず、発端となったトラックの踏切進入だが、この直前に京急の社員2名が関わっていたのは、少なくとも私は、この報告書を読むまでは知りませんでした。なんでこんな狭い側道(浦島152号)に進入してきたのか?と№2046では書きました。ドライバーが道路事情を知らなかったのではないかと思ったのだが、背景として、本来利用するであろう首都高速のランプが、工事のため長期間閉鎖されていた事があったのではないか(それをドライバーも、運送会社も知らなかった)と、報告書には記されています。
 踏切部分でトラックと京急社員が四苦八苦する様子も記されているが、早い時点で右折左折は諦めて、少し時間がかかっても、他の手段を考えるべきではなかったかと思いました。報告書では、そもそも大型のトラックが狭い側道に進入するのを防止する対策を、道路管理者などが行うべきだと指摘しています。運送会社は、困難になったら警察に連絡するよう指導した、としています。

浦島152号入口付近.jpg
 今の浦島152号の入り口付近です。京急東神奈川(事故当時は仲木戸)駅とJRの東神奈川駅を結ぶペデストリアンデッキから撮りました。1000形が通過する築堤の脇の道路が浦島152号で、入り口には大型車両の通行が困難な事、国道15号へのルートを記した標識が建てられています。手前左側にも設けられています。
(報告書にも写真がある)

 肝心の快特電車の運行だが、衝突の48秒前には踏切の鳴動が始まり、その4秒後には障害物検知装置がトラックを検知、特殊信号発光機(特発)が点滅を始めた。この踏切に対する特発は3か所あり、最も遠い特発は、踏切から572mの位置にありました。しかし、この特発は、架線柱やワイヤーなどで、一時的に見えづらい位置にあったという事。特発の点滅を認めてから1.8秒以内にブレーキをかけなければならなかったのに、実際には4秒後になったとされています。
 さらに、ブレーキのかけ方も、その4秒後の時点で掛けたのは通常のブレーキで、徐々にきつくなってはいくものの、最終的に非常ブレーキが動作されたのは、最初にブレーキをかけ始めた6秒後でした。この時点でも時速は101㎞/hで、この11秒後には、時速62㎞/hでトラックと衝突しています。
 どのみち、最初から非常ブレーキを操作しても、踏切までには止まれなかった(=衝突は回避できなかった)と思われるが、最初の特発を視認した時点で非常ブレーキを掛けなかったのは、背景として特発の設置位置・条件に加え、京急の運転取扱実施基準及び電車運転士作業基準で、使用する、すべきブレーキが明文化されていなかった事があると、報告書は指摘しています。

 私は、この事故に関しては、この後半の点が一番重要だと思います。バックアップシステムもないまま、運転士の判断にほぼ全てを委ねていた事になり、高速運転を行う事業者としては、これでいいのだろうか(新聞紙上にコメントした識者も、なぜ事故前はこのような運用になっていたのかも分析すべきだった、と記しています)。№2046でも記した通り、京急は運行システムのほとんど全てを、列車側も地上側も、今でもほとんどを手動に拠っています。CTCのような集中制御システムはなく、信号制御は各駅に配置した信号係が捌いています。異常時の運転整理も、コンピューターに頼らず、人間の手によって行われ、早期に収束させています。人間中心のシステムとなっている事が、長年続く京急のポリシー(であり、加えてなぜか、京急ファンの誇り)ともなっています。
 しかし運転に関しては、高速運転に加えてホームドアの整備が進みつつあり、それは運転士を始めとする乗務員には、新たな負担となってのしかかっているはずです。踏切も、東京都内の本線はほぼなくなっているが(北品川駅の前後3か所のみとなり、急カーブ上にあるのでスピードの出しようがない)、神奈川県内では今でも相当数残っています。極端に交通量が多い踏切は少ないが(逆にそれ故立体化が進まない事も予想できる)、それでも八丁畷駅付近は車の通行も少なくありません。従って、ATOとか言うのでもないが、報告書でも指摘されているように、何らかの、運転士をバックアップするシステムの導入は、今後緊急に検討されるべき、ではないでしょうか。
 なお、現在神奈川新町を通過する快特は、60㎞/hに減速して踏切を通過しているが、3月末までには120㎞/h運転に復帰するとしているようです。

 一方、シーサイドラインの逆走事故について。
 新杉田→並木中央間の下り列車が逆走して起きた事故だったが、直接的な原因としては、ひとつ前の下り列車(新杉田→金沢八景)の運行中、編成に2本ある、進行方向を伝える指令線の内の片方が断線した。この時点で、指令線は2本とも加圧されていない状態となるが、事故を起こした2000形には、直前の進行方向を記憶する「メモリー装置」が搭載されていて、そのまま終点の金沢八景まで運行された。上りは、もう一本の指令線が加圧されて進行方向が上り(金沢八景→新杉田)に設定となり、そのまま運行された。そして新杉田で折り返そうとした時、指令線が断線していた事で後退検知機能は働かず、メモリー機能が上りの方向を記憶していたため、運行の指令を受信した時点で、上りの方向に進行=つまり逆走、という事になりました。

 背景として、設計段階での会社、車両メーカー(報告書に社名は記されていないが、2000形は旧東急車輛製で、同社が新交通システム車両を製造したのは初)、装置メーカーとの間に、認識の相違があったと指摘されています。車両メーカーは新交通システムは初めてだったのに、シーサイドライン側は、設計のかなりの部分をメーカーにお任せ、という感じに読めました。メモリー機能と後退検知機能に関しては、車両メーカーと装置メーカーの間の認識の違いがあり、特に後退検知機能は、車両メーカーは「重要な保安システム」とする一方、装置メーカーは「ATCの付帯装置であって、保安装置ではない」と考えていた。結局、この3者の意志の疎通がなっていなかった、つまり設計のプロセスに問題があった、という結論になります。
 これを踏まえて、「メモリー機能はなくても問題なく列車が走行できるもので、むしろその存在が、危険を生み出す要因になっていた。また後退検知機能は普通鉄道を基にした仕様で、安全確保機能は不足」と指摘、「システムインテグレーションをどこが行うかが不明確だった」ともして、国土交通大臣に対して4項目の勧告を出したうえ、これらを制度化するよう、意見を出しました。運輸安全委員会が鉄道事故で国土交通大臣に勧告を行うのは、初めてだそうです。
 近年は新交通システムだけでなく、要員不足も反映して、いよいよ普通の鉄道でも、無人運転が現実味を帯びてきました。去年暮れからはJR九州・香椎線でも自動運転の実証実験がスタート、当面は運転士が添乗するが、いずれは運転士以外の係員が添乗する形態への移行を目指すとしているようです。列車内に全く鉄道職員がいない、という事にはならないようだが、いずれにしろ、運転士が直接列車の運行にはタッチしない自動運転が、実現を見る事になりそうです(私は、もっと先の事と思っていましたけれど)。しかし当然、今回のシーサイドラインの一件は、新交通システムのみならず、全ての鉄道事業者に、影響を与える事になるはずです。特に、設計の段階から(車両のみならず、普通鉄道の自動運転化は地上設備も)、キチンと関係者全員が、コミュニケーションを密にして、皆が同じ方向を向いた設計がなされる事が、求められます。

 完全自動運転のシーサイドラインと、運転士の判断にほとんどが委ねられる京急。金沢八景で接続する両社だが、真逆に位置していると言えます。無人運転は鉄道のみならずバスも各地で実証運行が行われているものの、システムに何かあった時に大丈夫なのかよ?と、一般の人々が不安を覚えるのは、無理からぬ事でしょう。だいぶ前には大阪のニュートラムでも暴走事故があったし。しかし一方、カーブが多く、線形は必ずしも良くない路線を高速運転するのに、大部分が運転士の注意力のみに任される状況は、果たして安全と言い切れるのか。無人運転はともかく、人手不足を背景に人員削減は残念ながら進み、それは運転の部門にも及んでいくのでしょう。一方で他交通機関との競争なども考えれば、高速運転による速達輸送も、たぶん後戻りはできない。となれば、どこまでコンピューターを中心にした機械に任せて、どこまで人の手が介すべきか、それは今後延々と議論される課題、となるのだろう。両極端とも言えなくもない両社の事故だったが、鉄道の将来を展望する時、2つの事故から導き出される方向性は、案外同じなのではないか、と感じました。それは恐らく、交通部門だけでは、ないのだろう。

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《今日のニュースから》
22日 福岡県小川知事 辞職届提出 治療長期化など理由
(栃木県 無症状者のPCR検査開始)
23日 足利市山火事 避難勧告発出
(北海道 感染者数66人2日ぶり60人超)

「緊急事態宣言」は、他地域では今月中の解除も見えてきたようだが、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県に関しては、どうやら3月7日まで完遂してしまう事になりそうです。