№2117 年鑑バスラマ2019→2020(ぽると出版)

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「年鑑バスラマ2019→2020」、先月末には刊行になりました。
 表紙の国産ハイブリッド連接車、結局去年の内には、導入を決定した事業者は現れませんでした。

「巻頭言」は、今年も和田編集長が書く事になりました。
 EVに関しては、テキストを読んだ限り、国産メーカーにEV車両の決定版の製造を期待するのはあきらめ、海外(特に中国)からの輸入車に期待を込めているような節があります。結局EVは、ディーゼルバスの延長線上では満足出来る性能の車両は実現しないし、国内メーカーはディーゼルバスを長年主力に据えて来たから、いきなりEVの決定版を製造するのは、もう無理なのかも、と(三菱ふそうの「e」シリーズには私も期待したが、バスに関しては確かに、新らしい動きがいっこうに見えてこない)。いっその事、「IKEBUS」を造ったシンクトゥギャザーのような、まっさらなベンチャー企業が、ポンチョサイズからでもEVバスを造るようになったら、業界の地殻変動が起きるのかも知れない(もっともベンチャーは無人運転の方に感心が向いているようだが)。極端な話、道路側の規格を変えた上で、海外サイズの車両をそのまま導入するのが、手っ取り早いのではないか、とも思うが、この辺、在来国産バスメーカーの「ホンネ」を知りたい。本来は、海外メーカーに市場を侵食されるのは困る、はずだ。

 バスドライバー不足は、今年も解決に向けた進展が見られませんでした。先に書いたように、大手事業者で、比較的好待遇だろうと思われる(実際の所は解らないが)京浜急行バスでさえ、高速・一般双方で減便が相次いでいる有様で、今月16日より、110系統(横浜駅~杉田平和町間)が12分→20分間隔と、大幅な減便になってしまいます。この系統は、昔は横浜市営と共同運行で、両者が交互に運行して10分間隔、だったのに。
「おもてなしを受けたがる日本人の国民性」とは、最近筆者が何度か指摘している事だが、それ以前に結局の所…、バスや交通に限らないが、日本は個人主義的な部分があまりに強すぎる。田舎はまだしも、都会は。全体主義の反対は個人主義でしかなく、欧州のような社会民主主義的な思想は根付かない(欧州も近年はやや怪しくて、バスのまっとうな運行に影を落とさないかと心配なのだが)。
 バスの運行に関して一つ感じているのは、一部の事業者では、営業所と路線の拠点の間が大きく離れているため(歴史上の経緯もあるだろうが)、回送時間がハンドル時間のかなりの部分を占めているのではないか、と思われる事。都営バスや西武バスなど、一部の事業者では、営業所から遠く離れた終点の回転場などに、乗務員が休憩を取れる場所を設けている所もあるが、回送距離・時間の長大化は、いろいろな面で(ハンドル時間だけでなく、燃料消費から来る環境問題の面でも)無駄と思われる。労使の協議や場所の確保が必要となろうが、何とか知恵を絞って考えて欲しい。あとは、運転以外の部分の負担の軽減。特に観光地。最近は京都のようなメジャーな国際都市、でなくても、ちょっとした観光地では外国人がわんさか押し寄せるようになっているので、ドライバーの負担がさらに増えているのではないか(特に、やはり言語)と、懸念があります。
「(公道)におけるバスの優先権が与えられていない」の指摘は、全く同感。今回はBRTについては触れられていないが、去年書いた事の繰り返しになってしまうけれど、BRTだのLRTだのと大規模な計画をぶち上げる前に、今既に走っている路線バスなり、路面電車なりの社会的地位を向上させ、公道上における優先権を確立させる方が、先決ではないだろうか?実際に乗ってみると、日本では、スムーズな運行を阻害する要素が、あまりにも多すぎる。
 なお、無人運転には引き続き否定的な論調だが、現実問題としては、前回更新時に書いたANA(BYDのEV使用)のように、すでに一般の人を乗せて走らせる、一歩手前の段階まで、実証実験を行う所も出てきている。無論、公道は相当先になるだろうが、空港内など、他の一般車両が走行しない地域は、結構どんどん無人運転が進んで来るのではないか、と思っています。

 やはり、EVにしろ、ドライバー不足にしろ、オリ・パラ輸送の影響にしろ、去年も書いたが、(バス・交通に限らないが)どうしても、一般の世論の底上げが必要になる。その点では気になる点が一つあって、国民民主党は昨年、党の新政策「新しい答え2019」を発表したが、その中には、「高速料金の上限を平日2,000円・土休日1,000円」というものがある。10年前の旧民主党の高速料金無料化政策が思い起こされ、早速JR連合が抗議する事となったが(組合員の収入が直接減少、という打撃を受けている)、要は、公共交通の拡充より、高速料金を引き下げるよ、と言う方が、世論のウケがいい(=票になる)と踏んだからに違いない。一方で公共交通は『乗合タクシー』『コミュニティバス』を国の予算で強力に支援する、と謳うだけ。目新しさがないし、ドライバー不足はどう解決するんだ、という点には全く触れられていない。これを、有権者がどう判断するのだろうか?
 安倍政権は昨年「事業者間の調整に関して、独占禁止法の適用から除外する特例を設ける」と発表しているが、野党の側は、これを上回る、利用者・ひいては国民に支持される政策を打ち出せるのか。バス事業者がドライバー不足を原因とする減便を発表してから慌てて、地元の左派議員が、ドライバーの賃金を上げろと「要請」しても、手遅れ。野党各党はどこも、交通事業者の労働組合の多大な支援を受けているのに、その割に公共高交通に対する態度は、どうも心元ない。政策の点でも、世論が政党とは違った目線から政治を突き上げる必要があるし、その一方で、我々自身が、自発的にライフスタイルを変革する必要もあるだろう。そうでないと、ウケの良さそうな(と政党が考える)部分だけが政争の具になって、真の公共交通の整備、ひいてはシフトには結びつかなくなってしまうのではないだろうか?これも何度か書いているが、専門色が多少濃いバスラマ誌なので難しいかも知れないが、もう少し、業界外(あるいは政治の外)の一般の大衆にも、この点でアピールする何かが必要なのではなかろうか?これが、30周年を迎えるバスラマ誌への、次の30年に向けて期待する事です。

国内バスハイライト 2019
 エルガ・ハイブリッドは、まだ導入実績がない?
「国産が低調」な事もあってか、輸入車両がかなりの割合を占めるようになりました。
 オノエンスターのEVは、特に国産のラインナップがディーゼルでもなくなっている9mが注目かな(国産のディーゼルにはなかったノンステップでもあるし)と思うが、側面は垢抜けていないなあという印象。小型車はポンチョのライバル、となろうが、前後の扉の間隔がやや狭くて、流動性はどうだろうか。いずれも、車内の様子を見たい。
 アストロメガは、去年が13台の導入で、そろそろ販売が軌道に乗ってきたのだろうか。具体的に名前を挙げると、京浜急行バスなんて、アストロメガは向いているのではないだろうか?京急バスもご多分に漏れずドライバー不足から、YCAT~羽田空港路線の減便も行われてしまっているが、YCATに限らず高需要路線が多い羽田空港発着路線を多数抱えながら、便数を抑えなければならなくなっている現状では、収容力が大きいダブルデッカー車は合うだろう。通勤高速路線もあるし。京急バスは外国車を運行した経験はなかったと思うが、オープントップバスを運行していて、ダブルデッカーの実績は積み上がってきていると思う。どうだろう。

海外バスカタログ 2019→2020
 一つ思うのは、イギリスって、バスの導入事情はどうなっているのだろう?年鑑を毎年眺めても、イギリスのメーカーというのが出てこない。ハイブリッドの「新ルートマスター」に乗ったというのは以前書いたが、あれはやはりロンドンバスに特化していて、海外展開は考えていない、という事なのだろう。イギリスはついにEUから離脱してしまったが、今後EU圏からのバスの購入において、どの程度の影響が出てくるものなのだろうか。

歴史編 日本の電気バスの歴史から学べること
 EV(+代燃車両)の過去から、EVのあるべき方向性を考察するが、「巻頭言」と重複する部分も多く、特に独自の指摘というのは少ない。政治・行政は方向性についてブレるな、という事だろうか。これも前述するが、政界は与野党とも、低公害バスはどうあるべきか、どう整備すべきかについて、ほとんど提言・提案などを行っていない。強権的になりすぎても困るが、メーカー任せにしないで、もう少し政治が前面に出るべき、という事だろうか。
 歴史を回顧する部分で一つ気になる点として、北九州市や薩摩川内市で導入された、韓国ファイバー社製のEVについては、全く触れられていなかった。日本初の大型ノンステップEVで、レギュラー号でも特集記事があったはずなのだが。これも一充電あたりの航続距離が80㎞程度で、これから望まれる水準には達していないのだが。韓国のEV事情はどうなっているのだろうか(韓国も燃料電池に舵を切るらしいが)。
 中国のEVは高く評価しているが、電力供給体制はどうなのか。石炭火力発電が世界的な非難を浴びていて、無論一方ではクリーンエネルギーも積極的に導入している、と聞いているが、毎年PM2.5の汚染が問題になっているのを考えると、片手落ちな部分もあるのではないか。車両そのものはともかく、電力供給に関しては、日本も十分に考えなければならない。それは先にも書いたように、政治・行政だけでなく、我々自身の暮らしもそう。いくら再生可能クリーンエネルギーと言えども、もう好き勝手にジャブジャブ使っていい時代ではなく、優先順位をつけなければならない。バス(に限らず交通全体)をクリーンなものにしようというなら、根本的な使用電力の製造・管理という所から始めなければならないだろう。
 なお、去年末に発表になった、トヨタとBYDの提携については、今号では一切触れられていない。無論、マイカーの共同開発がメインになって、バスにまで及ぶ事になるのかは定かではないが、燃料電池・EV、どちらの方向に向かうのかという点で、注目される動きではないだろうか。

 最後に、今後バスラマ誌に期待したい記事としては、

① バス停のあり方 神奈川県では、横断歩道に面したバス停で起きた死亡事故(バスが起こしたのではないが)がきっかけでバス停の設置場所の見直しが行われ、先日は私が住んでいるすぐ近くを走る路線のバス停でも移動が行われた。大型車両が頻繁に通る路線でも、待ち合わせなどにおいて、安全性が心配されるバス停は少なくない。これも政治・行政が絡んでくるが、沿線の住民への配慮も必要になるので、簡単ではない。それと、バス停にはどの程度までインフォメーションを掲げておくべきなのか。鉄道の駅と違って、何でもかんでもという訳にはいかない。と言って、外国で見られる、単なる標識でも困ってしまう。この辺の考察を。

② ベビーカーの扱いは 昨年は都営バスに双子用のベビーカーの持ち込みを認めて欲しいという運動が起きたが、無論事は都営バスに限らない。これまた車両の構造に関わってくるが、少子化が深刻化する日本においては、双子用でなくても、ベビーカーの車内での取り扱い方は、重要な課題となってくる。どうあるべきだろうか。私の過去の経験からすると、乗客の側も、協力できる事は協力すべき、なのだが、前述したように、社会民主主義がない日本では、この点が心元ないように思える。ドライバーの負担にも関わってくる問題だと思うので、車イスとともに、スマートな利用のあり方を考えて欲しい。

この2点を挙げておきたいと思います。

 武漢発・新型コロナウィルスの蔓延は、日本を含め世界全体に混乱を引き起こしているが、日本のバス業界において懸念される影響は、繰り返しになる部分もあるが、次の2点。
① 中国発インバウンド団体の大幅減少に伴う、貸切需要の減退。特に近年増加している、中国発インバウンド団体輸送に特化している小規模事業者には、間違いなく影響が大。
② 今年本格化が期待されいている、BYDやオノエンスターなどの、中国製EV車両導入の、一時的でも停滞。アメリカも絡んだ政治的な影響も(ファーウェイの如く)考えられる。
 来年の年鑑では、どう回想される事になるでしょうか。

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