№1940 鉄道ピクトリアル2018・12月臨時増刊号 【特集】近畿日本鉄道(鉄道図書刊行会)

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 鉄道ピクトリアル誌の臨時増刊、近畿日本鉄道(近鉄)の特集号が先月発売になりました。少しおそくなってしまったが、ここで取り上げます。
 表紙は、鳥羽~中之郷間の「しまかぜ」。
 近鉄の特集は、平成に入ってからは、1992(H4)年12月と、2003(H15)年1月の臨時増刊で取り上げれていて、今回は16年の間が開きました。近鉄と言ったらやはり特急で、表紙は、1992年は22000系「Ace」、2003(H15)年は21020系「アーバンライナーnext」でした。
 なお、今週日曜~月曜日にかけて関西の方に出かけていて、月曜日には近鉄に乗る機会もありました。来月書くが、その時の印象も交えて記します。

総説:近畿日本鉄道
 創業の頃からの近鉄の歴史が記されているが、特に昭和30年台までは合併に次ぐ合併で、規模を拡大して行きました。鉄道業に限ると、最盛期は三重電気鉄道を合併した1965(S40)年~北勢線を三岐鉄道に譲渡した2003(H15)年、という事になるだろうか。
 この16年での変化は、①持ち株会社制度の導入(近畿日本鉄道は、近鉄グループHDの子会社の位置づけになる)、②大阪近鉄バファローズの消滅(オリックスに合併、かなりの物議を醸した)、③あべの橋再開発と「ハルカス」オープン、④伊勢志摩G7サミットの開催、鉄道では①伊賀線・養老線・北勢線・内部線・八王子線の分離、②奈良線・難波線の阪神との相互直通運転、あたりが挙げられるでしょうか。

近畿日本鉄道の鉄道事業を語る
(近鉄 加藤 千明 鉄道本部長×今城 光英 大東文化大学教授) 

 まず近年の近鉄を見ていて非常に気になっているのが、支線はもちろん、各幹線でも本数が減少傾向にある点で、輸送量が減少しているのかと思っていたが、最近は下げ止まり、通勤は「はっきり」増加傾向にあるという。これは少々意外だった。特に大阪線は、3月の改正でもそうだったが、改正の度に輸送力の減少が続いていたので。ダイヤ削減は、これで打ち止めと考えて良いのか。ただ、名張は対大阪では半分に落ちているそうで、長距離の乗客の減少は、痛いのではないだろうか。奈良線の増加は阪神直通効果で予想通り、と言えるが。けいはんな線は、期待された奈良線のバイパス機能よりは、けいはんな線自体の利便性の良さが評価されているという事。学研奈良登美ヶ丘より先の延伸はどうなるのか。名古屋線は言及されていなかったが、こちらも輸送力の減少が続いているように見えるのだが、どうなっているのか。
 名阪新特急の構想が発表になっているが、現行の「アーバンライナー」は、名阪乙特急を中心にする、という事か。一般特急車両の扱いになるそうだが、機動力が在来形式に比べてやや劣る(編成の増減が簡単にはできない)ので、このあたりはどうするのか。短編成化や、「さくらライナー」でやっているような先頭車同士の連結もありうるのか?フリーゲージトレインは、新幹線への導入はなくなりそうで、近鉄が実用化の第1号になりそう。新幹線ほどはスペックも厳しくはしないで良いはずだし。
 要員の確保という点では、駅は30年位前は意外に合理化が行われていなくて、無人駅は少ない、というイメージを持っていたのだが、特に支線区は、最近はそうでもなさそうに見えます。ただ、運転まではどうか。近鉄は幹線は高速運転を行うし、支線区は踏切が多いので、簡単ではないだろうな。ワンマン化は普通列車を中心に進むだろうなとは思うが。
 通勤車の新造は、名阪特急の後になるのか。アルミのままか、ステンレスにするのか、比較検討中らしい。ステンレスは過去に3000系の4両しか導入の経験がなく、これで量産となると、近鉄通勤車の大変革となりそうだ。
 三重県のインバウンドが少ないとはやや意外かも知れないが、伊勢神宮などの宗教施設は、日本人固有の宗教観に関わるものなので、外国人には馴染みづらいのかも知れない。

営業設備、サービスと営業施策の展開
 この中で、タブレット端末を接続した多言語放送、今回南大阪線で聞く機会がありました。思った以上にキチンと案内が出来ていて、良いアイデアだと思った。このシステム、むしろ関東の京急~都営浅草線~京成の相直ルートで導入できませんかね?二大国際空港を直結するルートだし、聞いていて、主要駅スポット放送だけが自動、他は車掌の肉声による日本語のみ、という形態は、はっきり限界と感じているので。
 ICカードは、関西私鉄はポストペイの「PiTaPa」が先行したが、やはりプリペイド式への流れには抗えないよう。IC利用率7割弱、というのは、ポストペイ(=クレジットカード加盟が必須)なので手軽さに欠ける、という点があったのではないか。ICOCAは近鉄のみならず、関西の各鉄道事業者が順次導入を進めているので、今後は利用も増えるでしょう。元々近鉄は磁気カード時代から「スルッとKANSAI」と「Jスルー」を並行して運営していたので、違和感はなかったのではないか。

輸送と運転 近年の動向
 まず基礎データとして「主な沿線都市人口の推移」「輸送力および輸送量」という表があります。京田辺市が10年間で指数を大幅に伸ばしている一方、富田林市や羽曳野市の指数の減少が際立ち、大阪府南部の人口の減少が際立っているようです。このエリアに主要路線を敷く近鉄としては、看過できない数字なのではないか。
 各主要路線の実績では、特に大阪線は、下げ止まりにはあると言っても、12年間で6,000人以上減少しているし、他線区のような「V字回復」という所までは行かない。これは、沿線人口の減少もあるだろうが、南大阪線や、JR大和路線(関西本線)の存在も、あるかも知れない。
 大阪線は、快速急行がかなり減ってしまった。朝方の上り・夕方の下りがほとんどで通勤対策の意味が濃く、伊勢方面への長距離の足、という性格は、かなり薄まってきているように思います。

車両総説
「特急車両50年・一般車両60年までの使用を想定」か…。関東の目からすると、長いなあと思う。近鉄以外の私鉄(阪神はそうでもなくなったが)やJR西日本でもそうなのだが。関東では、西武・京王・小田急・京急はS40年台製の車両はもうなくなったし、JR東日本も、首都圏1都6県に限れば、もうない。特に昨今の電力事情も考えると、抵抗制御の車両が相当数残っているのは、すぐ近い将来問題になるだろうと思う。近鉄は、VVVF制御車をかなり早期にデビューさせた所なのだが、在来車両をVVVF制御に改造する、という事もしていない。そろそろ方針を変えないといけない時期ではないか。

電力設備の概要

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「ホーム安全設備」として、大阪阿部野橋駅の「昇降ロープ式ホームドア」が取り上げられているが、私自身、華道している所を見ました。一般的なドアではない、昇降ロープ方式は、以前JR西日本の高槻駅でも見ています。特急車や3ドア車(5200系)、あるいは規格が異なる阪神電車の運用を見据えた方式なのだろうと思います。ただ、柔らかい素材のカーボン繊維製とはいえ、頭上から降りてくるタイプというのは、どうしても危なっかしい印象が拭えない。

生駒・青山を越えて
「近畿日本鉄道をめぐる峠越え」の副タイトルが付いています。
 図抜けた最大手私鉄なのだから、峠越えの一つや二つあって当然だろうが、思えば、大手私鉄で他に峠越えと言うと、あとは南海線の孝子峠、高野線の紀見峠、関東の西武の正丸峠しかない。大手2位の東武は関東平野、3位の名鉄は濃尾平野を中心に路線網を広げていて、山の区間はあるとしても、峠と称する所はない。そもそも民間企業である私鉄は、需要の多い所に路線を敷くものだろうから、峠の先に大きな需要の発生が見込めなければ、リスクもある峠越えの路線を建設したりはしないだろう。裏を返せば、それが今の近鉄を構成する各鉄道の生い立ちや性格を物語るものではないだろうか。
 その意味では、同じ筆者が記した、2003(H15)年1月臨時増刊の「近畿日本鉄道の形成」を合わせて読むと、より峠越えの意図が読み取れると思う(特に青山峠)。
 生駒峠の改良は、戦中・戦後とも、生駒を経由しないルートが検討の対象になっていたのは興味深いが、やはり奈良県で数少ない大規模な都市の生駒を経由しないのは、営業の面で不利になってしまうだろう。大阪⇔奈良間の所要時間が大幅な短縮になったとしても。
 青山トンネルの開通・大阪線の全線複線化が意外に最近だが、東青山は新駅の方が、利便性が向上したというのもまた意外だった。西青山・東青山共に旧駅から相当離れた所に移転し、旧駅付近の住民が犠牲になっていたのではないかと思っていたので。

12000系列特急車の軌跡

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 12000系=「スナックカー」の印象が強いだろうが、残念ながらスナックが営業していた頃に乗った事はない。初めて近鉄に乗った時には、すでにスナックの営業もなくなっていたし、正面も改造されて、行先と尾灯類が一体になっていた賑やかな顔つきも、見た事がない。
 汎用特急で食事のサービスがあったのは良い時代だったと言えるが、どんなメニューが提供されていたのだろうか?シートサービスもあったとはいえ、小田急ロマンスカーの「走る喫茶室」と比較すると、もう少し簡素なものではなかったろうかと推測されるが。
 12000系に限らないが、特急車両は名阪間が定位で、名古屋⇔伊勢・志摩は逆方向になるというのが、長年意外だと思っていた。短絡線を通過する名阪特急が特殊な扱いなのではないかと思っていたので。
(従って名古屋線内は、特急車両と通勤車両で向きが逆になる) 

 今後の近鉄、と言っても所詮はヨソ者なのであまり色々な事は言えないが、車両の代替は急いだ方がいいのではないかなあ。近鉄でさえ、「青の交響曲」が通勤車の改造とは、正直哀しい。一度乗って見たいとは思うが。
 今回実際に近鉄に乗って気になったのは、駅の「喫煙コーナー」の存続。一昔前よりは縮小されているようだが、インバウンドの増加に加え、来年花園でラグビーのW杯が開催される事を考えると、対外的なイメージとしてはどうだろうか(ちなみに、JR西日本の駅は完全禁煙としているそう)。特急車も改造で喫煙コーナーを設けているが、他の私鉄特急車が全て完全禁煙としている事を見ても(小田急VSEも、喫煙コーナーを廃止している)、座席をつぶしてまでの設置は疑問。方針を転換すべきではないか。
 次の大きな変化は名阪新特急車のデビューと、その後の通勤車の新造、となろうが、2025年開催が決まった万博も見据えて、最大手私鉄にふさわしい格が備わる事が期待されます。

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 ロンドンのガトウィック空港は、ドローンの影響でこの数日、大混乱が続いているそう。全く腹立たしい。日本の空港も、いずれ他人事ではなくなるだろう。

《今日のニュースから》
21日 ヤクルト山田哲人 4億3000万円で更改
22日 熊本市動植物園 2年8ヶ月ぶり全面開園