№1789 双発ワイドボディJET TRENDY(イカロス出版)
イカロスMOOK「双発ワイドボディJET TRANDY」、昨年12月の頭には発売になっていたが、少し遅くなってしまいました。
実は元日が早々休みになり、成田空港へ行ってきました。といっても「ひこうきの丘」に3時間強留まっただけだったが、そこに飛来する旅客機の8割方は「双発ワイドボディ」、遠くに見えるB滑走路の着陸をひっくるめても、旅客用のB747は1機も現れず、A380もTGの1機のみ。JAL・ANAからのB747の退役もあるが、10年位前とは、「成田って、こんなだったっけ?」と思わせるくらい、全く様相が変わってしまいました。この1冊、そして前にも取り上げた「3発機リスペクト TRYJET STORY」「4発JET旅客機 LEGACY」と合わせて読む事で、その流れが理解できるようになるのだと思います。
前半は、1980(S55)年に就航したTDA(東亜国内航空)のA300B2に始まる、日本のワイドボディ機の歴史が、軽妙なタッチで綴られています。
歴史そのものは改めてどうという事はないが、「B787が、他機種の置き換えを目的に導入されたものではなかった」というポイントは重要でしょう。JALはデビューがいきなり北米大陸のボストン線で、サンディエゴ、ヘルシンキ、メルボルンはB787でスタートした路線、ANAもシアトル、サンノゼ、ブリュッセル、デュッセルドルフ(シドニーも実質そう)路線がB787で始まっています。「ハブ&スポーク方式の終焉」という世界的な流れを、そのまま体現していると言えます。後に一部でははB777シリーズを置き換えていく事になり、特にANAは、B787-9就航後にはB777-200ERが国際線から撤退、という事も起きるのだが。
ただ、なぜかどこにも記されていなかったが、JALがB777-300ERのローンチカストマーであった事も、影ながら大きかったと思う。どこまで本気かは解らないが、後に双発ワイドボディ機がB747などに取って代わることになると、密かに読んでいたのかも知れない。後に、知られる通りの一大事があって、思った以上に早くそうなったが、これもまた、世界的な傾向にもなりました。
あと、JALのB767-200が意外にしぶとかった。「Arc of the Sun」になって、B747と同じ頃まで飛んでいたので。
ANAのB767-200が一時SKY、ADOにリースされていた事があったので、その写真もあれば良かった。
JALは来年、国内線にもB787-8を導入するが、どのような仕様になるのでしょうか。羽田~伊丹線中心というから、Fクラス設定の3クラス、普通席は、国内線はさすがに9アブレストになるでしょう。ANAが国内線のB777やB787にもパーソナルTVを付けると言うから、対抗措置が取られるのでしょうか。
中盤では、総論として、双発ワイドボディ機の開発の経緯、技術上のポイント、そして現状が記されています。
双発ワイドボディジェット機が、ここまで隆盛を極めるようになったのは、次の3つのポイントがあったから。
1. 高バイパス比エンジン
2. ETOPS
3. 2メンクルーとグラスコクピット
この3点が出揃った時点で、多発機は急速に駆逐されていく。まず3発機が、構造上の中途半端さもあって先に姿を消し、4発機も、比較的新しかったA340でさえあっという間に過去のものになりつつあり(日本に来ているのは今やSK・LX・TNのみ)、2階席のあるA380とB747-8のみになった。この両機種も、A380は日米で売れなかったのが誤算になったし、B747-8に至っては3社(LH・CA・KEのみ)47機に留まっていて、終了も間際だろうと言われています(正式なアナウンスはないが、KE向けの1機が旅客用B747では最後だろう、という米の報道もあった)。
日本の場合、1.国内線は新幹線の延伸や高速化など陸上交通の強化で航空からの転移が少なからずあった、2.国際線も、羽田や成田の拡張である程度増便が可能になった、この2点が、超大型機の必要性が薄まった理由に挙げられるだろうと思われます。日本では、輸送量が急増するのに空港のキャパシティが小さかった事が、ジャンボ機などの大型機を必要とする理由になっていたので。
(他には伊丹空港が騒音対策でジャンボ機の離発着が原則禁止になった事、JALの経営破綻があった事もあるだろう)
今でも双発機の長距離飛行の安全性を疑問視する声はあり、杉江弘氏(元JAL機長)もはっきり否定的なスタンスを取っている(執筆している青木謙知氏は双発ワイドボディ全肯定だが、この点に関する解答も聞いてみたい)が、現実に長期間の運航で実績が積み上がると、双発である事そのものが多発機に対してはっきり危険、とはもはや言えなくなり、競争が年々厳しさを増す一方の業界だから、運航コストを無視する事がさらに許されなくなってくる(安全性を軽視していい、という事では決してないが)。日本ではこの後羽田空港の離着陸新ルート設定でさらに増便が見込まれるが(スッタモンダもありそうだけれど)、遅くともこの時点でよほどの事情がない限り、日本で見られる多発機はANAなどごくごく少数のキャリアのA380のみとなり、双発機への置き換えはほぼ完了する事になろうと思われます。
後半は、A300B2/B4以降の8機種(A300はB2/B4と-600で分けている)をラインナップしています。結局の所、双発ワイドボディ機を開発できたのは、エアバスとボーイングだけでした。ロッキードとマクドネル・ダグラスは3発機を造った所で、前者は旅客機の製造を止め、後者はボーイングに吸収されてしまいました。旧ソ連・ロシアも開発できていないし。開発に成功した両社が、大型機市場の「勝ち組」になった、という事でしょうか?
(B747-8やA380が売れないのは痛し痒しだろうが)
やや気になったのはB787の項目で、各モデルの就航開始あたりの所で筆が止まっているので、5年前のリチウムイオン電池発火による運航停止や、その後のGEnxエンジン機の一時的な飛行制限が記されていない。
また、B777は当初、短胴型の-100の計画もあったが、この点についても筆が回っていませんでした。
A300は当初、アメリカ市場の売り込みに当たってイースタン航空やラガーディア空港に色々便宜を図った事はよく知られているが、こんな事、今のトランプ政権下のアメリカでできるでしょうか?
最後半には「3発機…」同様の事故一覧があるが、事故・インシデントに関しては、エンジンの数は関係なく、全く別にデータベース的な資料を作成し、別に刊行すべき。やや記述がダラダラした印象も受けるし、1994(H6)年に発生したAF機ハイジャックなどは、機体そのものや運航の不備に拠るものではないから、ここでは不適当だと思う。
むしろ、今後の旅客機の開発の展望を見たい。A350XWBが就航した時点で、エアバス・ボーイングは共に、ナローボディ機も含め、まっさらな新設計機の計画がなくなってしまいました。後は「neo」とか「MAX」とかついた、在来機種の改良型のみ。今後「B797」とか、「A360」なる機体は現れるのか?としたら、それはどのような機体なのか、あるいはどのような機体であるべきか。
それと、ロシアと中国が旅客機開発で協力、2027年に双発ワイドボディ機の市場投入を目指すとの報道が昨年あった。結構重要だと思うのだが、背景に何があるのか、どのような物になりそうなのか、その辺の所も知りたいなあ、と思いました。
「双発ワイドボディ機 一覧」を見ると、JALのA350は、既に発注分全部の予約登録のレジが記されています。-900が「JA○○XJ」、-1000が「JA○○WJ」、この付け方にも、A350への期待の高さがにじみ出ているような気がします。どちらも、導入がもう来年、という話になりました。東京オリパラの前年なので、スペシャルカラーでデビュー、という事も期待できるでしょう。ANAのB777-9Xも期待です(まだ予約登録されていないし、東京オリパラには間に合わないが)。
超音速旅客機は、何でもアメリカのベンチャー企業が開発中、JALが資本提携というニュースがあったが、座席数45~55ではビズジェットの発展型という程度で、双発ワイドボディ機の地位を脅かす物にはなり得ない。数年・数十年は双発ワイドボディ機の時代は続きます。新設計機がしばらく実現しないので、成田も羽田も当分の間、ウォッチングではやや面白みを欠く事になろうが、ともあれ日本の空の(内も外へも)主役となった双発ワイドボディ機の動向は、機体の外も内も含めて、今後も注目となるでしょう。
なお、実は私も3月、いよいよA350XWBに乗る事になりました。思っていたより1年位早い。LHの羽田→ミュンヘン便で、昨年予約した時点ではA340-600だったが、12月に機材変更で交代となりました。LHの日本路線に双発機が就航するのは初めてで、これもまた、世界の旅客機の潮流を象徴する出来事と言えるでしょう。どんな体験が出来るのか。帰ってきたら改めて書く予定です。
(帰国はフランクフルト便のB747-8)
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