№1731 バスジャパン・ハンドブックシリーズS96 関鉄バス

「バスジャパン・ハンドブックシリーズS96 関鉄バス」(関東鉄道)が先月末発売になりました。いつも通り、データ分析を中心に書いてみようと思います。

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 関東鉄道は、過去に1998(H10)年のNEW25、2007(H19)年のR61で取り上げられていて、今回で3度目になります。常総線と竜ヶ崎線、2本の非電化路線を営業する鉄道会社のバス部門で、昨今では珍しくなってしまった、鉄道会社直営のバス事業者です。
 NEW25では日本観光バス・日本水郷観光自動車・竜ヶ崎観光バスのグループ会社があったが、R61で本体の貸切部門と共に関鉄観光バスに一本化、別に関鉄パープルバス、関鉄グリーンバスの分社も設立されました(鉾田が関鉄メロンバスだったが、R61刊行の前にグリーンバスに統合)。
 分社3社と合わせて、過去2回と比較しつつ取り上げるが、この10年で事業所の統廃合がかなり行なわれていて、単純な比較ができない部分もあります。NEW25時点では、関東鉄道直営で18も営業所があったが、柿岡・下館・田伏・鹿島各営業所は廃止、江戸崎・波崎は車庫格下げ、石岡・鉾田・下妻は分社、佐原は観光に移管されています。観光バスの事業所(営業センター)も集約されました。

◆ 関鉄バスの車両たち
 乗合車(高速除く)は431台が正当ではないでしょうか(パープル下妻〔営〕のいすゞが8台となっているが、9台ではないか)。トータルでは628台。この数値を元に分析します。

1. トータルの台数は、NEW25が633台、R61が648台だから、600台以上を維持してはいるが、この10年は減少傾向。特に貸切車は半分近くにまで大幅に減車を行なっています。 用途別の割合は、乗合68.63%、高速15.76%、貸切10.83%、特定(NEW25にはあったが、R61にはなし)4.78%。貸切車は過去2回の割合が20%台だったので、大きく落ち込んでいます。
 乗合は、全体ではNEW25は429台→S61時点で414台→今回は431台、だからそんなに大きくは変わらない。ただ営業所別で見ると、水海道〔営〕はNEW25は23台→今回48台と倍以上、つくば北〔営〕が18台→29台、つくば中央〔営〕が42台→60台と、つくば学園都市をエリアとする営業所が増強されています。一方鹿島・神栖のエリアは鹿島〔営〕廃止、波崎〔車〕は19台→6台、潮来〔営〕は13台→6台と大幅に減少、つくば地域にシフトが進んできた事が伺えます。グリーン石岡〔営〕の19台→34台の大幅増は、柿岡〔車〕の廃止と、「かしてつバス」の運行開始があるでしょう。
 現状の台数では、土浦〔営〕76台、つくば中央〔営〕60台、水海道〔営〕48台がTOP3。水戸〔営〕(46台)を除くと首都圏に近い、つくばを中心としてエリアの西側に集中する傾向があります。ただし取手〔営〕が32台と意外に少ない。本数の多い団地・住宅地路線はあるが比較的短距離で、他営業所のような長距離の路線はなく、取手駅には竜ヶ崎〔営〕・つくば中央〔営〕も入ってきているので、この数字になっているのでしょう。
 中小型と大型車の割合はだいたい2:1。大半は中小型車の方が多いが、取手〔営〕は大型が8割近く、土浦〔営〕も大型の方が多くなっています。
 高速は、鉄道は6営業所と1車庫、グリーン・パープル各1営業所、観光の土浦本社に配置されているが、一番多いのは水戸〔営〕の36台、次は潮来〔営〕の26台。潮来〔営〕は営業所全体の中で高速車が7割に近く、東京への高速バス〔かしま号〕が主力になっています。
 貸切は各営業所・車庫に分散して配置になっているが、純粋な「観光バス」は50台程度となり、鉄道8台・パープル4台以外は観光に配置されています。

2. 平均車齢は、乗合11.73年、高速9.43年、貸切12.28年、特定13.83年。全体的にR61時点と比較して、多少若返っています。
 乗合は2004(H16)・2006(H18)年が36台ずつと最も多い。ただし2004年は32台が京成バスからの譲渡車です。間に挟まれた2005(H17))年は15台と少ない(2台は京成バスからの中古導入)。同年TX開業を見据えていたのでしょうか。
 営業所別では、つくば北〔営〕が9.07年が一番若い。「つくバス」車両が大半と思われます。水戸・つくば中央・つくば北・水海道・取手が9年代で、水戸〔営〕を除くと、関鉄常総線・常磐線・TXに囲まれたエリアに集中しています。つくば研究都市の存在が大きいか。
 逆に高くなっているのは観光の土浦本社が19.78年、佐原営業センター18.00年(2台だけだが)。最高齢はその佐原にいる1992(H4)年式。20世紀の車両が97台残り、乗合車全体の1/4近くを占めています。NEW25時点の車両も、今回17台残存しているようです。

 高速は潮来〔営〕が5.62年とずば抜けて若い。つくば中央〔営〕8.76年、土浦〔営〕9.00年、水戸〔営〕9.03年と、東京へ高頻度運行する路線を持つ営業所で若くなっています。一方でローカル高速車は分社を中心に高めで、対東京への高速バス路線が、バス事業の主力となっている事が伺えます。
 貸切車は乗合からの転用もあり、純粋な「観光バス」のみだと11年弱程度になるかと思われます。1999(H11)年式が7台と最も多く、これがやや平均車齢を押し上げているのではないでしょうか。
 特定車は、水海道〔営〕で2014~2016年に5台、竜ヶ崎〔営〕で2015年に1台、集中的に配置されたのが目につきました。

3. メーカー別では、いすゞは終始50%前後を維持しているが、日産ディーゼルはNEW25の11.05%→今回3.82%と激減しつつあります。代わって日野が12.48%→16.40%と増加しています。
 R61であったクセニッツ(つくば市コミュニティ)と日産はなくなり、代わって現代ユニバース貸切車が登録されています。
 乗合のノンステップ率は、トータルでは49.05%。地方事業者としては高い方でしょうか。土浦〔営〕が67.11%と最も高率。次いで竜ヶ崎〔営〕が59.52%と意外に高いが、コミュニティバスの割合が多そうです。逆に観光は2営業センター11台で、佐原〔営〕の1台のみです。
 エルガハイブリッド12台は、民営事業者としては多い方ではないでしょうか?つくば北〔営〕を除く関鉄各営業所に1~3台分散して配置されています。「つくバス」用のエアロミディME・CNG改造車は、全車ポンチョに置き換えられて消滅しました(大利根交通担当分は解らない)。

4. 中古導入は、自家用(1者にまとめた)を含めて23者から192台を導入、グループ全体の30.57%で、1/3近くを占めています。圧倒的に京成バスが多く、乗合車は105台で乗合の中古導入の62.87%、乗合車全体では24.36%で、1/4近くになります。高速・貸切・特定にも京成中古があり、合計118台は、グループ全体の18.78%です。NEW25では一台もなかったのに、R61(当時は京成電鉄)では乗合76台・高速1台あって、さっそく中古導入の主力になっていました。
 中型系の日野レインボーHRが30台(1台はいすゞエルガJ)もあり、乗合車全体の約7%になります。
 次いで東急バス14台が目立ちます。一方で一時は主力だった旧西武バスは3台のみになりました。NEW25では都営バスが一大勢力だったが、今は全てなくなりました。、「グリーンシャトル」初代車も見られたが、車体ぐらい残っていないかなあ。以前から関西からの導入が比較的多いのが特徴的で、現在は旧尼崎市営、南海バス、阪神バスからの導入があります。
(京阪バス、大阪市営からの車両は全滅した)
 鹿島アントラーズ選手送迎バスはNSロジ鹿島という所から来たが、この会社は物流がメインの企業で、小規模ながら貸切バスの運行もあるようです。でもなぜ、潮来〔営〕でなく水戸〔営〕配置になったのだろう。
 茨城観光自動車からの引き継ぎは、もう1台だけになりました。

 三菱ふそうの大型車には神栖市のラッピング車が見られるが、「ピーマン生産量日本一」とは知らなかった。工業地帯のイメージがあったので。ガーラには納豆のラッピング車があって、東京~茨城空港線で運行されているらしいが、こちらには掲載なし。
 9322TCは三菱ふそう+富士ボディだが、最後の1台となりました。関東地方全域でも、ひょっとしたら最後?20年経っているからいつまで走れるか解らないが、今後大いに注目されるのではないでしょうか。

◆ 関鉄バスのあゆみ
 関東鉄道は常総線(旧常総鉄道)・竜ヶ崎線(旧竜崎鉄道)・筑波線(旧筑波鉄道)・鉾田線(旧鹿島参宮鉄道)
の4路線を運営する、非電化私鉄としては最大級の鉄道事業者でした(筑波線→筑波鉄道最終日の1987(S62)年3月31日現在では4路線合計で122.9㎞)。この母体の4社が皆バス部門を持ち、他社の吸収合併もあって、今のエリアが確立した、という事のようです。
 取手~水戸間の買収が4社競合になったとは、今の感覚では?だろうが、常磐線の取手~勝田間電化はバス路線の常総筑波鉄道買収の5年後で、渋滞などがない時代なら、バスでも十分競争になったという事でしょう。
 TXは、国際興業に直接打撃を与えた埼京線などと環境が異なり、特に守谷以北は開発促進の意味もあったかと思われます。元々沿線は関鉄バス路線はそれほど多くなかったようだし。また、筑波山へのアクセスも格段に良くなって、観光の利用が増えたと思われます。そのあたりが、「高速バスには打撃になったが、一般路線バスにはプラスに働いた」という事になったのでしょう。無論、パークシティ守谷~北柏駅など、影響を受けて廃止になった一般路線もあるが。
 NEW25・R61も含めてだが、常磐自動車道の開通(1981(S56)年4月・柏~谷田部間)と、「つくばEXPO」(1985(S60)年の開催がないのはどうしてだろう?どちらも関東鉄道のエリアに直接関わる大きな出来事なのに。

◆ 関鉄バスの路線エリア
 基本的にはJR水戸線・及び常磐線の小山~水戸間を結ぶラインと、利根川に挟まれた、茨城県の南部。これ自体は20年前から変わらないが、年を追う毎に路線網が荒くなり、空白域も広くなってきています。鹿島・神栖のエリアは、他のエリアとの一般路線のつながりがなくなりました。
 水戸線の駅は、かつては結城・岩瀬・友部にも乗り入れがあったが、現在は下館のみ。下館にしてもR61刊行後に一旦廃止となり(この時点で東武バスや東野交通もなくなっていて、筑西市は完全に「バスなし」に陥った)、行政主導で去年暮れから筑波山口まで復活運行になっています。旧筑波鉄道代替バスも、筑波山口~真壁間は行政主導で復活したものの、真壁~岩瀬間は未だバスなしの状態が続いています。
 千葉県には西柏・我孫子・布佐・小見川にも乗り入れがあったものが、現在は銚子と、観光の佐原のみ。
 なお、潮来〔営〕付近には一般路線が全くなくなったように見えるが、現行ダイヤでは1往復のみ、潮来〔営〕発着便が運行(関鉄観光バスが運行)。

◆ 終点の構図 波崎海水浴場
 NEW25は板敷山前(当時八郷町・現石岡市)、R61は柏渕(水戸市)でした。板敷山前バス停は今もあるが、羽鳥駅からの落下傘路線のみになり(関鉄パープルバスに移管)、写真にある柿岡車庫への便はなくなりました。柏渕は廃止になったようです。
 波崎海水浴場は銚子駅から、千葉との県境でもある利根川を渡って着くところで、1時間1~3本と、便は比較的良さそうです(間隔がバラつき気味なのが気になるが)。40年前は、東関東自動車道がまだ成田空港までしか開通していなかった頃。特急〔しおさい〕の他、急行〔犬吠〕も走っていました。確かに良い時代だったが、関鉄自体も東関道延伸のおかげで、高速バスで潤っているのだから、痛し痒し、なのかも。
(高速バスも波崎まで入っているが、海水浴場とは全く別の場所)

◆ 初夏のつくばねパノラマ紀行
 NEW25は種村直樹氏の東京→筑波山→土浦→潮来→東京の、R61は富田康裕氏の大宮→土浦→潮来→銚子の、共に2泊3日の紀行でした。種村氏は東京駅→筑波山〔ニューつくばね号〕、富田氏は大宮→土浦の高速バスからスタートしているが、どちらも今は廃止になっています。TXの影響を受けた〔ニューつくばね号〕はともかく、首都圏の場合どうしても東京一極集中になり、成田空港以外は吸引力が小さいから、大宮~土浦だけでなく、他の事業者の、他の東京以外と結ぶ路線も利用は延びなくなるようです。
 今回の谷口礼子さんの紀行は、初めて高速バスは一切なく、取手→筑波山→土浦→茨城空港→水戸と北上するルートになりました。ただし、一部種村氏、富田氏の過去の紀行とルートが被る所もあります。
 なのでこの3編を読み比べると、歳月による沿線などの変化を見る事もできて興味深い。特に廃線になった鉄道。筑波駅跡は、19年前は線路跡が草むしたままだった(広場には下館駅行バスが待機している)が、今回は遊歩道が整備されている。典型的なのは鹿島鉄道。19年前はまだ鉄道が運行されていて、種村氏は「玉造町駅に着いたら石岡行DCが来て、乗りたくなるが我慢」と書いている。10年前は廃線になって2週間後で、レールは一部剥がされた状態、石岡駅の代替バス乗り場は、西口の普通のバスターミナルからの出発でした。今回は「かしてつバス」となり、石岡駅は東口の新バスターミナルからの出発です。

 関東鉄道バスは、取手・土浦・守谷・つくばなどの周辺の人口密集地帯と、それ以外の地域の格差がかなり大きくなっているようです。関東平野に路線網があり、マイカーも走りやすそうだから、栃木・群馬県などと同様の構造になっているのでしょう。行政との関係は良好のようで、コミュニティバス以外にも、自治体主導で一般路線の新設や復活が行なわれています。今後ともこの関係が続き、利用が定着する事が望まれます。
 高速バスは、しばらくは現状維持でしょうか。〔みと号〕は、JR常磐線特急との競争が激しく、特に上野東京ライン開業後には品川まで直通運転も行なわれているので、ある程度は厳しい状況になるかも知れません。安さが武器となるだろうか。〔かしま号〕は、JRはもはや競争相手にはならないと思われるので、当分は安泰だろうが。両路線とも高速道路の渋滞が懸念材料で、圏央道等の延伸で緩和される事が期待されます。
 いずれにしろ、鉄道を含めて茨城県では有数の交通事業グループであるだけに、今後も他事業者や自治体と連携し、発展していく事が期待されます。

 次回刊は名鉄バスと発表になりました。名鉄からの分社で、東海地方では最大手の一社のはずだが、これまで取り上げられた事がなかったので歓迎です。グループ2社とは名鉄バス東部・名鉄バス中部だと思われます。名鉄観光バスは含まれないのか。

 当ブログでは直接のコメントは受け付けないので、何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。
 当ブログ上からでは発表できない緊急の事態が発生した時は、本体でお知らせします。


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