№1598 バスジャパン・ハンドブックシリーズS93 福島交通

「バスジャパン・ハンドブックシリーズS93 福島交通」が先月刊行されました。いつものようにデータ分析を中心に記してみます。
 表紙は三菱ふそうのエアロミディノンステップ車で、この型式が表紙に起用されるのは初めて。

◆ 福島交通の車両たち
 福島交通には分社がありません。東北の事業者は分社がほとんどなく、ミヤコーバス(宮城交通)と秋田中央トランスポート(秋田中央交通)くらいです(庄内交通が一時分社を行っていたが、現在は元の体制に戻っている)。
 BJハンドブックシリーズで福島交通が取り上げられるのは初めてだが、過去に「バスラマインターナショナル56」(ぽると出版 1999年11月 以下BR)と、「バスマガジンvol.41」(講談社ビーシー/講談社 2010年4月 以下BM)の事業者特集で取り上げられた事があります。車両数を比較すると、BRの時点では乗合539台(BRでは高速車の台数は別計上されていなかったので不明)、一般貸切115台、当時は廃止代替貸切車47台で合計701台、BMの時点では乗合414台、高速49台、貸切67台で合計530台だったとの事です。BJ(2016年6月1日現在)では乗合409台、高速67台、貸切71台で、1999年~2010年で大幅に減った(特に貸切)が、それ以降では特に高速車が増えたという傾向になろうかと思われます。

1. 用途別の割合では、乗合74.77%・高速12.25%・貸切12.98%で、全体の3/4が乗合車、残りを高速と貸切が分け合う形になっています。
 営業所・出張所別の配置では、乗合は当然福島・郡山の両支所に集中、福島〔支〕が全体の3割、郡山〔支〕が1/4を占めています。他は須賀川〔営〕と二本松〔営〕の台数がやや多めで、白河〔営〕が意外に少ないかも知れない。高速は4支所・営業所に配置され、郡山〔支〕の方が福島〔支〕より多い。貸切は全支所・営業所の他、船引〔出〕にも1台、エアロエースが配置されているのが目を惹きます。

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2. 平均車齢は乗合17.70年、高速14.93年、貸切12.41年と全体的に相当高齢化。BRの時点では全用途平均10.1年だったそうで、17年の間で新陳代謝が進まなかった事を意味します。
 乗合では、20世紀の車両が74.08%と実に3/4。特に郡山〔支〕は84.76%にもなって、福島県3位・中通りでは2位の都市を走るのに、平均車齢が19.44年と相当高齢化しています(相馬〔出〕が86.67%)。U-規制車が126台残っていて(元都営バス5台を含む)、乗合車全体の30%以上、最古参は1991(H3)年式だが、未だに27台・6.6%が残留。この数字を見ると、積極的に進めてはいるが、新型・移籍車両による経年車の置き換えは、まだまだ簡単ではないだろう、あと数年はかかるだろうと思われます。
 一方21世紀に入ってからは、2006~2008年の3年間は新車の導入なし。大型車に限ると、新車導入は、2000(H12)年のエアロスター・ノンステップ車2台を最後にありません。
 高速もU-規制が16台、貸切では4台残っています。

3.中古車の導入元は25者(湘南神奈交バスは神奈中に含めた)で、乗合33.74%、高速25.37%、貸切15.49%で、全用途トータルでは30.35%。高速も1/4強が中古なのは異例かと思われます。
 譲渡元は関東大手事業者が大半で、京王が高速も含めて43台で全体の7.86%、臨港が36台で6.58%、神奈中が22台で4.52%を占めています。臨港は中型に加えてLT・MMと9m準大型車が多いのが評価されたのでしょうか。
 貸切は、純粋な「観光バス」は元都自動車のみで、比較的若い新ガーラを導入できたのは、幸運だったのではないでしょうか。
 中古導入は旧体制でもなかったわけではなく、21世紀に入ってから都営バスの中古導入があったが(現在6台残っている)、やはりみちのりHD入り以降の2009(H21)年以降に急増しています。

4. かつての福島交通は三菱ふそう一本、BRの時点では100%、みちのりHD入り直後のBMの時点でも95%だったそうだが、現在は71.48%にまで低下しています。無論未だ一大勢力だが。いすゞ13.71%、日野11.15%。日産ディーゼルは3.11パーセントに過ぎないが、日デがある事自体、過去を思えば驚きでもありましょう。

5. 乗合のノンステップ車は89台あり、ノンステップ率21.76%。38台は中古車だが、過去の経営環境からすると、健闘した数字ではないでしょうか。梁川〔出〕42.86%、白河〔営〕42.11% 川俣〔出〕33.33%と、在籍が少ない事業所ほど率が高い傾向があります。福島・郡山両支所は全体の平均とほぼ同じ。全事業所に最低1台(相馬〔出〕)はノンステップ車があります。
 低公害車は今の所なし。

 ナンバープレートは、石川・棚倉の両出張所がいわきナンバーだが、相馬〔営〕は浜通りなのに福島ナンバーになっているのは、初めて知りました。
 写真を見た限りだが、旧体制のFKマークを残した車両が、高速・貸切で残っているようです。
 カラーリングはみちのりHDになって元に戻った事になるが、あくまで個人的な印象だが、乗合はともかく、高速・貸切ではさすがに古臭くなってきているのではないでしょうか。クリーム・赤・青を生かしつつも、新しいデザインが模索されても良い時期かと思います。
 
◆ 福島交通のあゆみ
 小針暦二の名前が何度か出てくるが、田中角栄(越後交通)ほどではなくても、小佐野賢治(国際興業)らと並ぶ有名な政商で、過去にニュース番組で名前を見た記憶もあります。
 福島交通成立後、2度も大きな経営危機を経験しています。1度目が1986(S61)年の(新)福島交通への移行、2度目が2009(H21)年のみちのりHD入り。無論経営の在り方にも問題があったろうが(特に1度目)、ローカル線の整理など合理化を強力に進めてもなお会社全体が2度も存亡の危機に陥るとは、地方の交通は特定の路線・エリアの存廃のレベルでは済まなくなっている事も、改めて認識させられました。
 東日本大震災は近年のエリアの一大事だから大きく割かれているのは当然だが、大内宿線の新設が車両の写真の掲載のみで終わっているのが残念。テキストで触れられても良かった。同じみちのりHDの会津バスとの協力で運行されているものでもあるし。

◆ 福島交通の路線エリア
 かなり縮小されたとはいえ、今でも中通り一帯に広域の路線網を持っています。ただし本宮市からの撤退により、一般路線は南と北で路線が繋がらなくなりました。
 基本的には全路線が福島県内に収まっているが、1ヶ所だけ、新白河駅からの路線がある「綱子(つなご)」が、栃木県那須町にあります。県境となる川を渡ってすぐの所らしい。「あゆみ」に拠れば、福島県南交通時代に白河から那須湯本までの路線が作られていたそうだから、その名残でしょうか。ただし、現行のダイヤでは土休日は運休、平日も早朝の綱子発と夕方の1往復だけだから、公共交通だけで訪れるのは、かなりハードルが高いです。
 他の路線も、棚倉より南、矢祭山付近の路線は全て土休日は運休。相馬地域も、現状ではほとんどの路線が、学校休校日は運行がありません。田舎の路線は完全に通学がメインになりつつあります。
 川俣~原ノ町路線は帰宅困難地域の飯館村を経由するため運休中。一般路線に限ると、相馬地域は事実上、中通りとは分断された状態にあります。
 相馬市役所前~仙台駅前間の高速バスは、JR常磐線の再開により、12月9日の運行を持って廃止と既にアナウンスされています。

◆ 終点の構図
 掛田駅前は地域のバスターミナルでもあり、行き止まりというわけではなく、純粋な終点とは言いがたい気もします。
(私基準では、終点は盲腸路線の行き止まりなので)
 それにしても、鉄道でさえなかなか見つけられなくなった木造駅舎が現存とは、確かに驚きです。「あゆみ」には「すでにバスセンターが併設された軌道線掛田駅」のキャプションの写真があり、細身の電車がバスと並んでいます。その当時の駅舎が未だ生き残っているわけです。
 確かに、電車に乗ってみたかったかなあ。私の場合は10年早く生まれていてもなお遅かったろうが。ただし、現在この電車を代替している上ヶ戸経由福島駅東口行は平日9本・土休日7本しかなく、午後は3時間空くところもあります。遅かれ早かれ、電車は消えゆく運命だったか。福島交通に限らず東北のローカル私鉄は廃止が進んで、4年前の十鉄廃線後は、東北本線(IGR・青い森含む)に接続するローカル私鉄は、福島交通飯坂線のみとなってしまいました。

◆ 磐城の伝統と伝説を訪ねる
 今回の谷口礼子さんの紀行は、郡山を起点として、南部に特化した旅となりました。
 今回の旅は7月5~6日、平日(火・水曜日)になりました。ダイヤを検索してみると、上蓬田→小野→下の湯(この路線はかつては国鉄~JR東日本~JRバス関東)は休日は運休、土曜日も2本のみだが、上蓬田14時31分(現行では30分)発、小野駅前15時45分発は運行されるので、土曜日に旅が始まるなら利用できました。しかし2日目の馬場町(石川)→白河は、土休日は日中に適当な便がなく、白河を歩く時間がなくなるので、平日の旅となったと思われます。このプランニングにも、生活のサイクルを重視したダイヤの現状が垣間見えます。
 上蓬田には高速道載せ替え前のいわき(平)~郡山~会津若松の特急バスの案内表記が残っているらしいが、この特急バス〔スワン〕は、ハンドブックシリーズになる前の№12(1989(H元)年)で、故種村直樹氏(…もう三回忌なんですね…)がルポで乗っていて、上蓬田の地名も出てきていました(写真はなかったが)。(旧)常磐交通便でローカル特急ながらネオプランのダブルデッカー、「スチュワーデス」(もう死語)による結構なサービスも受けられたようです。高速道路が津々浦々延びる以前の話、国道を走る特急便が各バス事業者のステータスだった、古き良き時代の名残りでしょう。
 今回のエリアでは影響はなかったが、原発事故の影響は、福島交通でも避けられないものでした。
 ラーメン食べたくなったな…。

 福島交通は正直利用した事がないので、どのような方向に行くべきかは、あまり言う事はできません。
 ただ、まず車両の代替は急いだ方がいいかも知れない。特に高速車でさえ経年20年以上の車両が16台も残っているのは、安全運行確保の点からも問題があるでしょう。
 営業面では、最低現状の旅客数をつなぎ止めておく事でしょうか。大震災の影響が営業・運行の面で直接出ていて大変ではあろうが、みちのりHDの元で、なんとか立ち直って欲しいと思います。既に明るい傾向も見えてきているようなので。ただスケールメリットという点ではどうなのだろうか。

 次回刊は箱根登山バス・東海バスと発表になっています。東海バスはシリーズ16とR58で取り上げられていて、R58で箱根登山バスも加わりました。小田急グループの観光ルートの形成も担う両社の現状はどうなっているのでしょうか。車両面では箱根登山→東海という流れができあがっているが。

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