久しぶりに「私鉄名車列伝」、やります。
今回は小田急のロマンスカー、50000形「VSE」です。
私鉄特急の最高峰の一つだが、気づけばデビューからもう10年以上経ちました。今でもロマンスカー一の人気を博しています。
50000形は、7代目ロマンスカーとして、小田急のフラッグシップの任を担うべく、2005(H17)年に就役した。小田急のみならず、日本の鉄道の特急車両としても最高峰の1つに上げられる。2006(H18)年ブルーリボン賞受賞。他、多数の賞を受賞している。
20世紀末~21世紀初頭のロマンスカーは輸送力増強の必要もあって、汎用的な用途に用いられる30000形「EXE」の増備が続けられてきたが、観光輸送に特化したアコモデーション、特にロマンスカー伝統の展望席を設置したハイグレードな車両が望まれ、箱根特急専用車両として開発された。
著名な建築家をデザイナーに迎え、車内は全体的に、2,550㎜の高いドーム状の天井も持つ事から、
「VSE」(=Vault Super Express)
の愛称を与えられている。
10車体の連接構造となり、M5-M6間を中心に点対称に編成が組成されている。車体はアルミ製、展望室はシングルスキン、他はダブルスキン構造となっていて、シルキーホワイトに、ロマンスカー伝統のオレンジの帯をまく。展望席と運転席に大型曲面ガラスを使用した前頭部は、ドイツの高速列車を髣髴させる。
アンクルチルドリクライニング機構を採用した座席のピッチは中間車1,050㎜・先頭車1,010㎜・展望室1,150㎜に拡大され、全体の定員は358名(含む「サルーン」)と、HiSE(432名)の82.8%に抑えられている。展望席は16席設けられ、12席は向かい合わせにして、ラウンジ風にする事ができる。オレンジ系統の一般席は窓側に5度向けた点が目新しく、通路側からも展望をより楽しめるようになった。床面にはグレー系のカーペットを敷いている。
M3・M8にはVSEのもうひとつの魅力、「ロマンスカーカフェ」が設置され、オーダーエントリー方式のシートデリバリサービスの基点となっているほか、弁当やおつまみ、デザート、記念品などを販売して、カフェコーナーとして利用できる。隣接して、M8(3号車)には4人掛けコンパート「サルーン」、M3(8号車)にはバリアフリー対応の一般席を設けているほか、両車両には「ゆったりトイレ」・洗面所・喫煙ブースを集中して配置している。デッキ部仕切りには液晶モニター「情報パネル」が設けられ、TVOS(Train Vision Odakyu System)を使用して列車や観光案内などを4ヶ国語で提供する他、運転席から前方の映像も適宜放映される。「VSE」ロゴマークも、両車両の側面に大きく描かれている。床はフローリング。
制御方式はIGBT素子のVVVF制御で、台車単位で8M3Tとなった。135kwの密閉式モーターに加えて床下全体をカバーで覆い、騒音防止を図っている。連接車体と、通常より約1m高い空気ばね(連接部の中央部分に見える)方式により、最大2度の車体傾斜制御が実現した。設定最高速度130㎞/hは、ロマンスカー史上最速である。2階の運転台はマスコンを左側に配置、メーター類は液晶画面2面にデジタル表示とした。
2編成が日本車両で製造され、2005(H17)年3月19日より営業運転を開始した。一部の例外的運用を除き、「スーパーはこね」「はこね」に専用されている。なおVSEは当初から客室完全禁煙だったが、2008(H20)年のロマンスカー完全禁煙実施に伴い、喫煙コーナーはフリースペースに転用された。同時期にM8デッキ部にAEDを設置した。2014(H26)年12月には無料Wi-Fiサービスを開始している。
運行開始当初、小田急が作成したVSE運行開始時の、予約開始告知のチラシ。
裏面には当時のVSE運用の時刻が記されています。新宿~箱根湯本間最大6往復は今も変わらないが、平日は5往復だった他、ノンストップの〔スーパーはこね〕が、当時は土休日下り3本・下り2本、平日下り2本設定されていました。
(現行ダイヤは土休日2往復、平日は下り1本のみ)
〔はこね〕は、本厚木は通過でした。
既に何度か記している通り、VSEの「売り」だったはずのシートサービスは、次回3月26日のダイヤ改正時により、他のロマンスカー同様のワゴンサービスに転換される事になっています。
私が見聞きする限りでは、小田急のダイヤ改正のリリースの末文に記されているだけで、具体的な理由などを記した文献などは見当たりません。だから想像だけでしかないが、〔スーパーはこね〕の本数が減り、〔はこね〕の停車駅が増えているので(次回改正からは、本厚木または海老名のどちらかに停車する)、シートサービスがやりにくくなっているのかも知れません。ただ、ロマンスカーは車両そのもののハード面だけでなく、シートサービスのようなソフト面も売りで、これがVSEデビューが待望された理由の一つでもあったと思います。なので、やや残念という感はあります。「ロマンスカーカフェ」は残るのだが。
VSE自体、2編成がデビューした後、あとが続きませんでした。私は勝手に、この後も増備が続いて、HiSEだけでなく、LSEも全部置き換えていくのだろうと思っていたのだが。コストの問題もあるだろうが、デビュー直後に発生した、JR福知山線の大惨事が影響していると見ています。無論あんな事は二度と起きてはいけないが、万が一あのような事が起きると、展望席のお客さんが真っ先に危険にさらされる事になるので。
(現にJR北海道の「クリスタルエクスプレス」は、踏切事故を契機に展望室を閉鎖している)
といって、LSE7000形はデビューから35年以上、小田急全体でも最古参の状況では、看板列車でもあればいつまでもこのままとはいかず、早期の置き換えも望まれる状況にあるかと思います。展望席がロマンスカーに不可欠なら、名鉄「パノラマスーパー」のような、運転室と展望席を上下入れ換えた構造も、考えられなくはないが、ロマンスカーの長年のファンからはどう受け止められるか、小型車体の連接構造で可能なのか、という問題もあるでしょう。
この数年、ロマンスカーの増備はMSEのみ続いています。この状況はなんとなく、EXEがNSEを次々に置き換えて行った20年前と似ている気がします。あの時は箱根の観光が伸び悩んだ一方、会社帰りや買い物客の利用など、ロマンスカーの利用が多角化していた事が理由でした。秦野や大和への新規停車があったのも、次回改正で海老名・伊勢原に新規停車するのと似ています。
とはいえ箱根が小田急グループを支える大観光地である事は変わらず、現在は観光の訪問も安定しているし(大涌谷は懸念だが)、まして外国人の訪問が増えているので、20年前と全く同じではない。となると、MSEと共に、次世代のフラッグシップとなるべきロマンスカーのデビューが、そろそろ望まれるのではないかと思います。10年経ってしまったから今更VSEの増備ともいかないだろうし。多くの観光客やファンを唸らせる、新ロマンスカーのデビューを待望したいと思います。
今回の記事は
「鉄道ピクトリアル2006年10月臨時増刊号 鉄道車両年鑑2005年版」(鉄道図書刊行会)
「鉄道ピクトリアル2010年1月臨時増刊号 【特集】小田急電鉄」(鉄道図書刊行会)
「小田急電鉄完全データ DVDBOOK」(メディアックス)
「小田急電鉄の世界」(交通新聞社) 等
を参考にさせて頂きました。
次回は東急田園都市線の2000系です。
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