昨今、日本でも世界でも、大小様々航空機事故・インシデントが続出しているが、その最中、航空事故について取り上げた本が出版されました。
青木謙知(よしとも)氏は航空ジャーナリストで、航空関係の雑誌のコラムでもお馴染みであり、TVのコメンテーターとしても、メディアではおなじみの存在かと思います。
やや刺激的とも思えるタイトルから、航空機事故の内幕、知られざる真相を暴いているのかとも思われるだろうが実際はそうではなく(そういう内容ではないだろうと、最初から思っていたが)、世界各地の旅客機事故やインシデントを、実際の旅客機の年を追う毎の進化を絡めながら、事故・インシデントの実際の原因を記す内容になっています。
個人的な印象としては、個々の事例の記述については、ややウンチク的な方向に偏ってしまっているのではないかなあと感じました。また、あまり知られていない海外のインシデントもいくつか取り上げられているが、一方で日本人には関心が高いはずの中華航空機名古屋墜落事故(1994(H6)年4月26日)や、ガルーダ機福岡オーバーラン事故(1996(H8)年6月13日)について触れられていないのは、やはり不自然ではないかと感じられました。コクピットクルーのコンビネーションとか、V1到達後の異常事態発生の対応という点で、当時はかなり衝撃的な内容でもあったので。
個々のケースでは、大韓航空機の済州島オーバーラン事故(1994(H6)年8月10日)について、結論的には副操縦士が機長の意思に反して勝手にゴーアラウンド操作を行った事が原因、としているようだが、これは意見がかなり分かれそう。そもそも、機長(カナダ人)と副操縦士(韓国人)の意思の疎通が、かなり前からできていなかったようで、韓国のキャリアではありがちの事のようでもあり、もっと深い所(悪天候時の手順はできていたか?クルーの編成は妥当か?とか)から原因を論じられなければならないのではないか。
(この事故、中華航空機名古屋墜落の直後で、しかも同じA300-600Rだったのに、日本人には意外に知られていない?)
また、昨年のピーチの沖縄のインシデントについても、外部の報道の在り方についての方に記述の大半が割かれているようでもあり、きちんとした状況の追求になっていない。もちろんまだ調査中で、内容が明らかになっていない部分もあるが、一部でコクピットクルーの行動に厳しい意見がある事(副操縦士はなぜ機長にきちんと意見を言えなかったのか?など)も認識しておかなければならない。
全体として、「ではどうやって航空機事故を無くすのか?」という、一番肝心な事については、実はほとんど触れられていません。最後に「事故の減少と安全性の向上が犠牲者への報いだ」と結ばれているのみで、それは全く正解なのだが、そこへ至るまでに、業界関係者は何をなすべきなのかという部分が抜け落ちてしまっている印象です。ハイテク機も、名古屋の事故の如く万能ではない事が知らしめられている。LCCの世界的な普及は、コクピットクルーに重い負担を強いているかも知れない。巻頭で速報的に挿入されて記さているジャーマン・ウイングス機事故も、あるいはそうなのかも知れない。アシアナ機のサンフランシスコや広島の事故は、コクピットクルーの意思疎通の点でどうだったのか?会社の人事には何か抜け穴があるのではないか?航空会社は、航空行政は、メーカーは、事故防止のために本当にすべき事は何か?真に必要な部分、我々が知りたい部分が、ほとんど記されていないように感じられてなりませんでした。
結論として、事故の調査の在り方とか、統計の読み方とかについてページが割かれているので、むしろこれから航空関係(特に事故関係の調査に当たる部署)に就くとか、航空事故について調べてみようかという方々の入門書としては良いかと思うが、もう少し深く航空事故について知りたいという向きには、正直かなり物足りない記述、というのが率直な印象でした。
航空や、さらに交通に限った事でもないだろうが、大事故についての記述は様々あるが、大半がダラダラと事実関係を並べるだけで、読みやすいものは少ないなあと感じています。事故の当事者が書くものはある程度主観的になるのはやむを得ないだろうが、第三者、特に専門家が事故・インシデントを全般的に書くものに関しては、やはり客観性が必要だろうと思います。といって調査報告書の丸写しでも困るが、「5W1H」に則った、簡潔でデータベース的な記述から結論を導き出す事が、私は望ましいと思っています。
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《今日見た・聞いた・思った事》
調査報告書と言えば、昨年2月の東横線元住吉駅の追突事故の調査報告書が昨日公表されました。
状況としては、大雪の最中の2月15日0時30分過ぎ(14日深夜)、先行の各駅停車が元住吉でオーバーラン、退行運転の準備のため運転司令は後続の各駅停車に停止を指示したが、後続は非常ブレーキをかけても停止しきれず、先行列車に追突した、という事です。
後続が停止できなかった理由としては、車輪とブレーキの制輪子に着雪の他、脂分などの付着物があり、それらがブレーキ力を低下させる原因となっていた。制輪子は使用中は清掃が行われず、付着物は制輪子の約半数で見られたという事でした。
また、積雪については当時は司令からの規制が行われておらず、要は運転士の注意力に依存する部分が大だったという事のようです。
報告書は、大雪の時の運転規制の見直しを行う他、制輪子付着物の除去を定期的に行う事、耐雪ブレーキの使用方法や時期についての明確化を行うべきだとも記しています。
これを受けて東急は、 ①制輪子付着物の除去を3か月に1回行う ②運転規制の明確化 ③耐雪ブレーキ使用時機の明確化 を中心に、除雪体制の強化や、旅客への周知の徹底などを行う、と対策を発表しました。
昨日はこの他、銚子電鉄の脱線や、3年前に起きた那覇空港のインシデントの報告書も公表されています。銚子電鉄は、なかなか運行や経営が安定しないですね…。
《今日のニュースから》
28日 サーベラス 西武ホールディング株売却を開始 財務局に報告書提出
29日 スキー・アルペン世界王者 マルセル・ヒルシャー来日