№1241 航空インシデント調査報告 一挙公表

 昨日、2011(H23)~2013(H25)年にかけて発生した、ANA関連の重大インシデント3件の最終報告書が、運輸安全委員会(JTSB)から一挙に公表されました。
 3件の中でも最大の関心事は、昨年1月に発生した、高松のB787-8緊急着陸になるかと思います。

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 昨年1月16日、山口宇部から羽田に向けて飛行していたANA便が火災の疑いで高松に緊急着陸、乗客乗員が誘導路上で脱出した、という事案でした。これがきっかけで、全世界のB787が約4ヶ月に渡って運航が停止、特に既に国内線で相当機数就航させていたANAは相当混乱しました。
 メカ的な部分は詳しくないからあまり大きくも書けないが、報告書によると、直接の原因はリチウムイオン電池のセルの一つがベント(気体の排出)により熱伝播の起点となって、熱暴走の要因になったという事らしい。しかし、なぜそのセルが発熱を起こしたのか、内部でショートしたものとは思われるが、そこに至るいくつか考えられる原因を全て排除はできず、メカニズムの特定には至りませんでした。
 B787のバッテリーに関してはこの事態の他、直前にボストン空港で大規模な発煙があり、今年も発煙のトラブルが起きているが、いずれも1月に起きているので、寒冷な気候条件も原因になっている可能性は否定できないとしています。
 一方、バッテリー開発時の試験で、航空機に装着した時の試験が適切ではなく、ショートの影響が過小評価されていたと考えられるとも記されています。本来1000万時間に1回起きるか起きないかのトラブルが、25万時間で3回起きたのは異常です。
(直接バッテリーとは関係ないが)回路部には本来あってはならない部品があり、それが緊急着陸の後になって発見されたという話もあって、これらを読んだ感触では、コクピット・クルーの対応は完璧だったから、完全に機材そのものの品質や、引き渡し時点での最終的な安全確認の不備の問題であったろうと思われます。
 これを受けてJTSBはFAAに対し、

1.装備品の試験を適切に行うよう、航空機メーカー及び装備品メーカーを指導すると共に、必要なら技術基準の改正や、バッテリーの安全性評価の見直しを行う事
2.ボーイングに対して、バッテリーのショートがどのようにして起きたかの確認の継続や、バッテリーの品質向上などを指導する

等を行うよう、勧告を出しています。
 セルのショートの原因を特定できなかった事は議論を呼ぶ事になろうが、ボストンの一件のNTSBの報告書がまだ出ていないし、シロートとしては、もう少し様子を見なければいけないのかなと思います。
 B787はこれ以降も各キャリアに引き渡しが進んで日本でもかなり見られるようになってきたし、B787-9の就航も始まりました。大分落ち着いてきたとは思うが、早く完全に安全・安定した就航が図られる事を望みます。リチウムイオンバッテリーに関しては、今後も詳細な研究が必要。

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 ちょうど3年前、沖縄から羽田に向かっていた、当時のANKのB737-700が太平洋上で急降下する事態となった一件も、最終報告書が出ました。それにしても、大惨事を免れ、関係者全員が生存しているにもかかわらず、報告書の発表まで3年とは、ずいぶん時間がかかったものです。
 直接の原因としては、機長が用を足すため退席していて、副操縦士が一人で操縦していたが、機長が戻ってきた時、副操縦士がコクピットのドアを開けようとして、ドアーロックセレクターと間違えてラダートリムスイッチを操作してしまい、機体が異常な姿勢になった、そして副操縦士の姿勢回復操作にも問題があって(経験がなかった事もあってややパニックになってしまった)、さらに異常な状態に陥ってしまった、という事のようです。
 スイッチを間違えた理由としては、ラダートリムスイッチの位置が、以前装置していたB737-500のドアーロックセレクターのスイッチに近かった事もあるだろう、その辺が機種転換時の訓練できちんと身についていなかった可能性がある事に加えて、ラダートリムスイッチの形状そのものも問題ではないかと指摘しています。
(ボーイングでは737以外の機種は、形状がドアーロックセレクターとはっきり違う)
 さらに、操縦士が一人だった際、および高高度飛行中の異常事態発生時における訓練の内容が十分なものではなく、これはANAグループだけではなく、日本全ての航空会社で同じだとも記されていました。
(海外では行っている所もあるとしている)
 これを受けてJTSBは、

1.ANAに対し、運航乗務が1名になったの際の基本的遵守事項の徹底と教育、高高度における異常姿勢からの回復の訓練
2.国土交通省に対し、高高度における異常姿勢からの回復の訓練を、全航空会社に義務化する事
3.FAAに対し、B737のラダートリムスイッチの形状の変更の可能性を検討するよう、ボーイングに指導する事

等を行うよう、勧告を出しています。
 副操縦士がパニックになったのも、事前の訓練が十分でなかった事だけでなく、機長がドアを解錠してコクピットに入室しようとした行為も、副操縦士の冷静な判断を妨げたのではないか?とも記されていて、重大事態の原因というのは、本当に一つではないなあ、微妙な部分(特に心理的な面)がいろいろ影響するものだと改めて思わされました。

 今回の3件の報告書(2012(H24)年の庄内空港でのオーバーランも含む)は、全てANA関連になったが、もちろんANAだけの問題ではない。高高度の異常事態の訓練が全キャリアで行われていなかったなど、事は日本の航空業界全体に関わります。全ての航空会社のや行政の関係者が垣根を越えて問題点を共有し、運航の安全性の向上・事故ゼロの実現に生かしてほしい。航空機メーカーも、バッテリーに限らず、これからどんどん新技術が取り入れられていくはずだから、開発には最初から余裕を持たせて、品質の向上に努めるべき。MRJあたりも、心して欲しいと思います。

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