№1199 山陽電車踏切事故 事故調査報告書公表

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 少し前の話になってしまうが、昨年発生した山陽電鉄の踏切事故についての事故調査報告書が、先月27日に運輸安全委員会から公表されています。
 昨年2月12日、直通特急として姫路から阪神の梅田に向かっていた山陽電車が、荒井駅手前の踏切で立ち往生していた、乗用車運搬用のトラックに衝突し、前2両が脱線して架線柱や荒井駅のホームに次々に激突、列車は運転士が重傷、乗客15人が軽傷を負ったというものです。

 私は昨年、廃止直前の鳴門市営バスを撮りに行った後、大阪へ戻る途中舞子で途中下車し、舞子公園から姫路まで山陽電車に乗りました。それは№915で軽く触れただけだが、その途中、東二見でカバーをかけられた状態の被災車両、荒井では仮設で復旧した上りホームを見かけています。

 事故に至る流れとしては、トラックが前の車が踏切のすぐ先で停止しているのに、すぐに移動するだろうと思って踏切に進入、しかし信号が変わらないので前の車が移動せず、そのうちに踏切が作動してしまった。前の車が移動したので脱出しようとしたが、乗用車を搭載するための道板(折りたたまれていた状態)が遮断かんに引っかかってしまうと思い、道板をを下してからトラックを動かそうとした所で、特急が衝突してしまった、という事になろうかと思います。
(トラックのドライバーは、現場付近の交通事情をあまり解っていなかった)

 やはり第一義的にはトラックの側に原因があります。前の車が踏切のすぐ先に停止していたら踏切には進入しない、というのは鉄則だし、万が一踏切に閉じ込められる事態になったら、真っ先に非常ボタンを操作して列車を止める(事故が起きた踏切にも装備されていた)というのが正しい措置だと思います。予想外の事態が連続して、気が動転してしまったのかも知れないが。
(なお、障害物検知装置はトラックを検知できなかったようだ)

 列車の運転及び非常ブレーキ操作に関しては問題はなかったが、私鉄車掌経験者として考えさせられたのは、事故発生直後の車掌の行動。
 このような脱線事故が発生した場合、車掌はまずは列車防護に走る必要があるが、事故後の口述によれば、車掌は事故の直後、精神的な動揺から乗務員室より動けず、列車防護にも行けなかった、ややあって運転指令より状況の報告と、車内及び運転士の様子の確認を行うよう指示があって、その報告ののち、駅助役らと共に乗客の救出作業に当たった、との事。
 この点については報告書も、「冷静に状況を判断して報告し、列車防護に向かうべきだった」と指摘しています。
 ただ、車掌の経歴を見るとまだ20歳で経験が12日、車掌になりたてで通常の乗務だけでもまだまだ精一杯だったろう状況で大きな事故に遭遇、まして運転士との通話ができない状況では、どうしようどうしようとオロオロしてしまうのも、無理からぬ事であろうとも思います。
 この後山陽電鉄がこの車掌に対してどのような処置・教育を行ったかは解らないが(社全体で列車防護に関する教育を行っている、としている)、単に叱責するのはダメで、フォローアップ教育の充実が必要でしょう。

 このような大規模なものに至る事は希少としても、踏切事故自体は決して少なくありません。抜本的な対策は踏切そのものの撤去しかなく、山陽電鉄でも西新町の立体化工事が進行中だが、簡単には事が進まないのも事実です。
 乗務員の立場としては、反復した訓練が何よりも大事だと思います。
 私が勤務した私鉄では毎年1回、運転士と車掌が合同で大規模な踏切事故を想定した訓練を行っていました。事故が発生した場合、車掌は、

①後方へ列車防護に走り、後続列車の停止手配を取る
 (特に全軸が脱線していると、後方の信号が「青」になってしまっているので)
②列車に戻って運転士に報告ののち、転動防止(列車が間違って動き出したりしないように)を実施
③運転士らと協力して、車を踏切から除去し、救急車の手配を取る
④現認者(目撃者)を2名以上確保(その間に運転士は列車の状況を点検)

というのが大まかな流れになっていたと思います。さすがに運転士が動けなくなった場合はどうしよう、という所まではやらなかったが、ともかく重大な踏切事故は必ず起こりえるものとして、関係者は真剣に訓練に臨むことが大事でしょう。

 そして、大規模なものは希少と書いたが、決して過去にもなかった訳ではなく、2002(H14)年には名鉄特急も名古屋本線で大規模な踏切事故を起こしています。
(特別車が廃車となり、1380系が起こされる原因になった)
 しかし、福知山線事故のような、大量の犠牲者を出してしまった大惨事はともかく、この程度までの事故では、案外風化も早く、鉄道事業者の内部でさえ簡単に忘れられてしまう傾向がある気がします。これは私自身が感じてきた事でもありますが。今回の事故も山陽電鉄だけで終わりではなく、全鉄道事業者が報告書を基にこの経験を共有し、踏切事故防止、そして迅速な対応につなげる必要があるでしょう。

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