№538 乗り物目線で読むコミック プラネテス(幸村誠)

 前回は「ふたつのスピカ」を、ちょっとひねって乗り物の視線で読んでみました。
「スピカ」は2003年11月にアニメ化され、NHKで放映されたという事も書きましたが、この1ヶ月前、同じくSFコミックを元にしたアニメ化作品が同じくNHKで放送を開始していて、話題になっていました。
 今回は、そのコミック「プラネテス」(原作:幸村誠)を取り上げます。
 これも最初はアニメから入り … サンライズの製作なので、、NHKで放映されるサンライズ作品とはどんなものだろうと思っていた … それから原作全4巻を揃えたという流れです。
 こちらははっきり2060~70年代を主な舞台とした、本格的なSFコミックでした。

あらすじ:作品概略
 2068年、高々度旅客機「アルナイル8型」にスペースデブリが衝突、多数の犠牲者を出した大惨事は、人類にデブリの危険性を改めて認識させる事になり、デブリ回収業が職業として認知されるようになった。主人公・星野八郎太(通称「ハチマキ」)もその一人。夫と息子を地球に残して単身デブリ回収船の船長を務めるフィー・カーマイケル、アルナイル8型の事故で妻を失ったユーリ・ミハイロコフと共に、危険と隣り合わせのミッションを日々淡々とこなす毎日を送っていた。しかし、木星往還船「フォン・ブラウン」号の建造や、新人・田名部愛(タナベ)の出現は、ハチマキの人生を少しづつ変えていく。
 原作は「コミック・モーニング」(講談社)1999年7号~2004年6号の間で、全26話が不定期に連載された。
(別に番外編1本)
 単行本全4巻。
 前述の通り2003年にはアニメ化もされているが、アニメ版については後述します。

 物語の発端となった大惨事を引き起こした「アルナイル8型」は、大気圏外の高度150㎞まで上昇する事で超音速飛行を可能とする、スペースプレーンでした。
 №485で書いた、ヨーロッパで開発の可能性が取りざたされている超音速旅客機とは異なり、大気圏外を飛行する事で空気抵抗をなくし、超音速を可能にするというものです。
「宇宙ごみ」スペースデブリは現実世界でも問題になりつつあり、2009年2月にアメリカとロシアの人工衛星が衝突して大量のスペースデブリが発生した事は記憶に新しく(「プラネテス」の世界を連想した人々は少なくなかったはず)、最近でも今年の6月、ISSにデブリ群が接近、古川航宙士を初めとするクルーが一時非常用カプセルに避難したという出来事もご存知でしょう。

 それにしても、高々度旅客機も宇宙へ行くシャトルも、日本での玄関口は成田(国際宇宙港)のままなのか…。
(PHASE4:単行本第1巻)

 月面の都市ではモノレール的(札幌市営地下鉄みたい)な新交通システムも運営されている。 
 コミックにおいて他に小道具的に出てくる乗り物としては、PHASE13(単行本第3巻)に出てくる路線バスとか。
 2050年代後半なのにモノコックっぽい。
 リアの「成田-月、18時間。」の広告には笑った。

 乗り物というとだいたいこんな感じ。
 このコミックでは宇宙空間における日常生活をベースとしているためか、エネルギー源に関わる描写が多く、現状を踏まえてみるとさらに興味深く思えます。
 この時代では既に核融合発電が主流であり、地上のバイクなども電力で走行しているようです。
 PHASE3(単行本第1巻)における宇宙防衛戦線のテロリストの戦線布告には、クリーンエネルギーに転換されても、それが大国の奪い合いに明け暮れているだろう事が示唆されている。
 PHASE8に登場するハキムの祖国は中東にあり、かつては石油で潤っていたが、枯渇してしまったため貧困にあえぎ、内戦状態に陥ってしまった。
 PHASE13のタナベの故郷は風力発電が盛んだ。
(ちなみにタナベの(実は血のつながりがない)父は電力会社の社)
「デブリ」もそうなんですが、原作者の幸村誠は一見ボーッとしているように思えて(失礼!)、実は先見の明が非常に高いと感服せざるを得ません。

 …と、乗り物(やその動力源)の目線で読むと、こんな感じでしょうか。
 全編が終始読み切りの寄せ集めで連続性があまりなく(何しろ不定期連載)、多少戸惑う部分もあると思いますが、日常生活を踏まえて地に足が着いた、これまでなかったスタイルのSFコミックですから、エネルギー源のようにむしろ今読むと面白い部分もありますし、一度手にとってご覧になるとよろしいのではないでしょうか。
 ちなみに原作は「星雲賞」を受賞しています。

アニメ版について
 アルナイル8型の事故から7年後、宇宙開発産業の最大手・テクノーラ社の新入社員 田名部愛が、宇宙ステーションISPV-7にある「デブリ課」に配属された。しかし社内でも「ハン課」と仇名されるデブリ課は、部屋は倉庫の改装、課長と係長補佐は昼行灯、事務は「ハケン」、オマケに目の前に現れた宇宙飛行士は、下半身オムツ姿という有様だった。
 2003年10月4日~2004年4月17日にNHKのBS2にて初回放映。その後教育テレビ(Eテレ)やBSハイビジョン(BSプレミアム)でもリピート放送されている。読み切りの寄せ集めの感が強かった原作を連続TVシリーズとして成り立たせるために「サラリーマン物」の切り口でアレンジ、オリジナルエピソードを多く取り入れ、原作エピソードも順番をかなり入れ替えている。キャラクターもオリジナルを数多く設定、原作キャラもタナベやハキムなど、多少役割が変わっている者がいる。前半は会社を舞台にした笑いあり、涙あり、カタルシスありのバラエティ編、後半はフォン・ブラウン号を巡るハチマキとハキムの対決を最大の山場に据えた連続編となる。JAXAへの実地取材も踏まえ、宇宙空間の描写にはかなり力が入っていた。
 監督は「無限のリヴァイアス」で注目を集め、後に「コードギアス」をヒットさせる谷口悟朗。シリーズ構成・脚本は「あずまんが大王」「オーバーマン・キングゲイナー」などの大河内一楼。CVはハチマキ=田中一成、タナベ=雪野五月など。
 DVD・ブルーレイがバンダイビジュアルより発売。

 何度か書いていますが、このアニメ版は土曜の朝方に「BSアニメ劇場」の枠で、前回書いた「ふたつのスピカ」と同枠で放映され、(ベクトルは全然違うけれど)同じSFコミックのアニメ化作品としてアニメファンの話題を集めました。
 その事もあるのか、アニメ版では「スピカ」をパクった描写があり、特にPHASE20の閉鎖環境試験には相当驚かされました。
(ちなみに両作品はNHK側のプロデューサーとSF考証が同じ人、またCVも1人、両方に出演している人がいる)

 アニメ版にはさらに魅力的な乗り物が多数出てきます。
 アニメ版の主な舞台となる宇宙ステーション「ISPV-7」は、企業のオフィスやショッピング街、ホテルなどがある一方、地球と月面を結ぶ交通の中継点としての性格もあり、「TOY-BOX」を初めとするデブリ回収船などの事業用の宇宙船も頻繁に出入する。
 だから「六本木ヒルズ」+「成田空港」+「東京へリポート」をミックスしたようなもの、と言えば解かりやすいでしょうか。
 ここから地球に向かう往還型シャトルと、月面まで3~4日間の航海に臨む「ルナ・フェリー」(携帯電話みたいな形だった)が出発する事になります。
(蛇足だが、チェンシン(ハチマキの同期のパイロット)がこの両者の乗務を掛け持ちしているのは疑問だった)

 それと、谷口監督は何でもプチ「鉄」なのだそうで、それを反映してか、鉄道状の乗り物がいくつか出てきました。
 PHASE1、ISPV-7内の専用軌道を走るゴムタイヤ状の輸送システム(貨物の操車場みたいに、最後部車両に係員がしがみついていたりした)とか、PHASE25ではハチマキのバイクの脇を、東北新幹線のマグレブが追い抜いていったりしています。
 月面では懸垂式のモノレール的な乗り物も確認。
 月面の各都市の間はシャトルバスが運行されているそうで、物語の終盤に重要な役割を果たす事になります。

 以上、2003年に放映されたアニメ版を踏まえ、単行本をそろえて読んだコミックを、乗り物の目線で振り返ってみました。
 まあこんな読み方をするコミックファンは少ないでしょうし、本筋からはたぶんかなり外れているはずですが、こういう見方もあるのではないか、と思いまして。
 これからももし紹介できる機会がありましたら、取り上げてみようと思います。
 と言っても、そんなに作品は多くないのですが。

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 関東地方はまた連日真夏日です。
 夜吹く風はさすがに涼しくなってきましたが…。

 このブログや本体のHPは「XP」で作っているのですが、遠からずフォローなくなっちゃうのかなあ…。
 まだ購入して10年経っていないのだけれど…。
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