関東地方は毎日毎日梅雨空が続いています。
韓国から帰って以降、せっかくの休日も、どこにも撮影に行けません。
まあ気温が低くて涼しいのは、節電には役に立つでしょうが。
今回取り上げる「幻の国鉄車両」は、長い国鉄の歴史の中で発案されたものの、日の目を見る事がなかった車両の計画を取り上げています。
特に日本の鉄道黎明期~昭和の初め頃の標準軌改軌論争や戦争中の「弾丸列車」計画にかなりのページを割いている他、ディーゼル機関車開発期における生臭い裏話も披露されています。
ある程度試作車両として形になっているものとしてキハ391系ガスタービン列車やコンテナ電車クモヤ22、グリーン車だけ世に出た163系急行車、近鉄のL/Cカーの原形となった片町線クハ79のクロス/ロング転換試作車などがありますが、ほとんどは机上の計画だけで終わってしまっています。
(その中ではC63形SLが有名でしょう)
といっても何もかもがムダになった訳ではなく、新幹線貨物用電車が「スーパーレールカーゴ」と形を変えて実現したとか(この書籍の企画はそのM250系の開発が始まった事がきっかけという)、今のE231系のような4ドア近郊型が昭和30年代に既に発案されていたという、興味深い話も見られます。
巻頭カラーグラフの「新幹線モデルチェンジ車両」「個室ひかり」も、100系としてある程度実現したのも、ご存知の通りです。
国鉄時代末期のあたりに、EF70の直流化計画とか、余剰特急グリーン車を利用した上野~長野間スーパー特急計画とかは聞いた事はあるというものもあります。
新高速特急電車なんていうのもなかなかカッコ良くて(先頭の形状はJR九州の783系「ハイパーサルーン」が結構近い)、実現していたら乗ってみたかったかもしれません。
国鉄時代末期の労使紛争に代表される混乱が、残念でならない所です。
ところで、この書籍は2007年10月に発売されました。
私も一度立ち読みで見た事があったのですが、それを今になって改めて購入し、ここで取り上げるのはなぜか?
実は様々な計画の中で、一つ「トンデモ」な計画があったからなのです。
その名は「AH100」。
「国鉄が取り組んだ原子力ガスタービン機関車」。
げ … 原子力ガスタービン…?
昭和30年代、日本でも原子力の研究が解禁になって1956年には茨城県東海村に日本原子力研究所が設立され、各分野で原子力の研究がスタート。
アメリカや西ドイツ、旧ソ連では原子力を利用した機関車の研究が進められ、これを見た日本の国鉄も、鉄道技術研究所で原子力を利用した機関車の研究を行ったというものです。
原子炉で発生させた熱で圧縮空気を加熱しガスタービンを駆動、発電機で発生させた電気をモーターに伝える、というのが駆動の原理のようです。
結局国鉄自身も何が何でもという訳ではなく、単なる机上の調査研究で終わったという事ですが、それも放射能が危険だからというのではなく、原子炉のバリアーがあまりに重いため(原子炉が1.3tに対してバリアーは109tにもなる)、コストがかかりすぎる、原子力発電による電化の方が現実的という結論になったという事のようです。
この計画に対する著者の評価はありませんでしたが、実際の所、放射能の危険性を敢えて無視しても、原子炉とバリアーの重量があまりにもアンバランスだし、そのために1車体で30m近くになってしまったら、運用できる路線はほとんどなくなってしまうでしょう。
その割にスペック的にEH10型電気機関車と大差ないのでは、日本においては相当使いづらくなったはずです。
しかし原子力の機関車なんて、仮に脱線とか、踏切事故とかあったらそれだけで近隣の放射能汚染という事になるし、まして先日の<スーパーとかち>のような事故になったら、それこそ今回の原発事故並みの環境汚染の危険性も大きくなるでしょう。
実現しなくて良かった…?でしょう、やっぱり。
この時代はまだ原子力は今ほど危険視されてはいなかったようで、現実でも空想の世界でも、様々な分野で原子力が動力源として設定されていました。
交通の世界でも、№41で少し書いた、「サンダーバード」の「ファイヤーフラッシュ」も原子力を動力源にする旅客機でしたが(フィルターを交換しないと放射能漏れが発生するという設定からして、製作者も放射能の怖さは認識していたはずだが)、やっぱり常に高速で動く交通機関に原子力は使えないでしょう。
せいぜい船舶、それも軍用程度では?
乗り物からは離れるけれど、昔の子供たちが熱狂していたヒーローものもそう。
「鉄腕アトム」からして、原作は原子力が動力源だったし(妹は「ウラン」だし)、「超電磁ロボ・コンバトラーV」とか、仮面ライダーのバイク(「ZX」の「ヘルダイバー」)も原子力を利用する設定になっていました。
今世論は福島第一原発の事故を受けて反原子力一辺倒になり、まあそれはこういう深刻な状況になってしまいましたから当然といえますが、こういう時代があったんだ、という事も知っておいて良いのではないかと、「AH100形」計画を見て思いました。
こういう一般にはほとんど知られていない計画も、当書籍において数多く発掘され、公開されています。
ここで取り上げられた計画は旧国鉄のものだけでしたが、当然私鉄や、国鉄民営化後のJR各社でも色々な計画が生まれ、消えていった事でしょう。
(形になったものとしては、EF500などがありました)
今後の鉄道車両計画はどこへ行くのか?
今回の大震災や電力不足問題が、大きな転機になるような気がしますが。
是非ともここで取り上げられた様々な計画が礎になればと思います。
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