№442 路線バス 終点の情景(加藤佳一/クラッセブックス)

 今日はバスの著作についてのレビューです。結構話題のようで、JTB時刻表2011年4月号の「ノリノリのりもの情報局」にもありました。

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 最近は鉄道に続いてバスの終点も静かなブームなのかも知れない。先日の故宮脇俊三氏の過去の著作の文庫化に続き、また一冊バスの終点にまつわる味わい深い著作が発表された。

「バスジャパン・ハンドブックシリーズ」のエディター、加藤佳一氏によるもので、こちらは1986年にスタートした、バス趣味誌の草分けといえる「バスジャパン(BJ)」より、後継の「ハンドブックシリーズ(BJHS)」に至るまで各号で1つずつ紹介された、バスの終点の情景が単行本にまとめられたものである。
(一部初出のものもある)

 構成はいたってシンプル。1枚の終点の写真を基に、それ程長くも、難しくもないテキストが添えられている。テキストも、終点そのものの情景もあり、そこに至るバス路線の情景もあり、加えて風変わりな地名であれば昔話や民謡も交えて味わい深い解説もあり、さらには著者自らが歩んできた人生も交えられている。メモとして、終点のその後の変化が加えられている。
(これに寄れば、全く足がなくなった終点は、ジェイアール北海道バスの下新拓だけのようだ)
 都会のバス利用者からすれば、鉄道と違い、バスの終点といったってポールが立っていなければただの空き地という印象も強いが、保井野(せとうち周桑バス)や奈良田(山交タクシー)のような、車庫然とした建物がある所も少なくない。「ただの空き地」にしても、周辺の風景(昔ながらの民家、森林、海、木々など)が、より終点の光景を引き立たせているようだ。待合小屋がある終点もあるが、下新拓と新原ビーチ(沖縄バス)では造りが全く違い、日本の意外な広さも感じさせる。

 それも田舎の話で、都会には関係ないだろうと思われるだろう。まえがきでも自ら触れているように、大手事業者(特にニューハンドブックシリーズ以降は首都圏)が中心であるが故、特に北海道や九州がほとんどない。どちらにも大手事業者は存在するからいずれ取り上げられる事を期待したい。だがどうしてどうして、首都圏でも峰(横浜市交通局)や北八朔(東急バス)など、思いの外都心に近いニュータウンの傍らにひなびた終点があるのには驚かされる。一方で扇町(川崎市交通局)のような純粋な工業地帯に位置する終点もあるが、それはそれで興味深い。

 この著作では、新しいもの(原・京阪京都交通)から古いもの(浮島・日本国有鉄道)の順に並んでいる。なので、実は逆に後ろのページから読んでいくと面白いのではないだろうか。
 バス趣味的にも第1回の浮島ではいすゞ+日野モノコック車体で始まり、その後スケルトンボディ全盛となって、扇町では初めてノンステップバス(しかもCNG)が現れる、この変遷が楽しい。
 加えてテキストも著者が結婚し、父親となって、過去に思いを馳せながら、少年時代にさかのぼりながら己の心境の変化を垣間見せている。鶴見線の73系や玉電、時には「ルパン3世」のアニメシリーズにまで言及していて楽しい。

 ともかく、これからバスの趣味(特に乗り歩き)を始めてみようかな、という方には絶好の1冊ではないだろうか。
 最後に、バスジャパン各号は創刊当初からいずれも予算が厳しいためか「終点」のページが皆白黒で、止む無き事とはいえ残念だったのだが、今回ごく一部ではあるが、表紙でカラーの終点を見る事が出来たのはうれしい。
 日本の自然、まだまだ捨てたものじゃないぞと思わされる。

 ところであとがきに、一部の終点についてはネガを見つけられずに掲載できなかったとありました。
「大湊」(サンデン交通)もその一つですが、これは№24にも書いた事ですが、私自身ここを訪れた事がありました。
「BUS JAPAN」№7に掲載されていたものですが、上の画像に近い形で掲載されていたと考えてください。
(ただし本文はサンデンの西工「はんぺん」が写っている)

 申し訳ありませんが、コメントは受け付けない事にしています。この記事について何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。
 また、何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。

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