№128 JTB時刻表大研究(グラビア編) 矢野直美の「ダイヤに輝く鉄おとめ」

「JTB時刻表大研究」は、今年は巻頭のカラーグラビアについて取り上げていきます。
 第1回は、「矢野直美のダイヤに輝く鉄おとめ」。
 2006年9月号より連載が始まり、2010年2月号で41回目を迎えました。

 今、日本の鉄道の現場でも、女性の進出は急で、都会の通勤電車でも、女性の運転士や車掌の姿を見る事が決して少なくありません。
 一番積極的だと思われるJR東海だと、東海道線あたりの普通列車では、運転士・車掌が共に女性というケースも多く見かけます。

 鉄道に携わる女性の歴史は、何も今に始まった事ではなく、戦時中(男性が戦場に刈りだされて、代わりに女性が運転の現場に携わった)の異常事態を除いても、国鉄でも既に弥彦駅で、「観光駅長」に女性が起用されるというケースがありました。
(この連載開始前の「駅旅本線」(2006年6月号)でも取り上げられています。)
 もちろん、運転以外なら、昔は多数連結されていた食堂車のウェイトレスとか、車内販売員、私鉄特急等の「サービスガール」(呼称は様々)という例も数多く見られました。
 ローカル線・ローカル私鉄の委託の駅員が女性という例も当然多く、今でも見られます。
(当連載でも出てこられます。)

 運転業務となると、記憶が正しければ、女性運転士の第1号は、秋田内陸縦貫鉄道だったはずです。
 JRグループの第1号は、JR貨物のELの運転士だったのでは?
 本格的に鉄道、特に運転の現場に女性が進出するようになるのは、やはり21世紀になってからの事です。
 当連載も、その流れに乗ったタイムリーな企画だったといえます。
 JTB時刻表としてこの企画に力が入っているようで、人気もあるのでしょう、通巻1000号記念の昨年5月号を除いて、欠かさず連載が続いています。

 ここで、連載が開始されてから、最新の今年2月号までに取り上げられた「鉄おとめ」の皆さんを並べてみます。

1 2006年9月号 伊豆急行 運転士
2 2006年10月号 JR東日本千葉支社習志野運輸区 運転士
3 2006年11月号 函館市交通局 運転士
4 2006年12月号 名古屋鉄道名古屋乗務区 助役補佐兼車掌

5 2007年1月号 東京モノレール羽田空港 第1・2ビル駅駅務掛
6 2007年2月号 秋田内陸縦貫鉄道 車掌係
7 2007年3月号 上毛電気鉄道 運転士
8 2007年4月号 和歌山電鐵貴志川 運転士
9 2007年5月号 智頭急行 運輸部営業課車掌
10 2007年6月号 AZZ関西空港ステーション AZZ CREW(アズクルー)
11 2007年7月号 えちぜん鉄道 運輸部運輸課アシスタント
12 2007年8月号 土佐電気鉄道 運転士
13 2007年9月号 鉄道アイドル
14 2007年10月号 JR北海道 駅員
15 2007年11月号 広島電鉄 運転士
16 2007年12月号 JR東日本 新潟支社新潟運輸区 車掌

17 2008年1月号 JR九州 門司車掌区 車掌
18 2008年2月号 一畑電車 駅員
19 2008年3月号 JR四国 高松車掌区 車掌
20 2008年4月号 IGRいわて銀河鉄道 運輸管理所 運転士
21 2008年5月号 鹿児島市交通局 電車事業課運輸係 運転士
22 2008年6月号 岡山電気軌道 運転士
23 2008年7月号 小湊鉄道 運転士・車掌
24 2008年8月号 筑豊電気鉄道 車掌
25 2008年9月号 秩父鉄道 車掌見習い
26 2008年10月号 鳴子温泉郷観光協会 鳴子温泉駅観光駅長
27 2008年11月号 佐敷駅 NPO法人ななうらステーション理事長
28 2008年12月号 沖縄都市モノレール「ゆいレール」 運転士

29 2009年1月号 土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線 車掌
30 2009年2月号 叡山電鉄 運転士
31 2009年3月号 北総鉄道 駅務係
32 2009年4月号 松浦鉄道 伊万里駅駅務係
33 2009年6月号 江ノ島電鉄 鉄道部 江ノ島駅配属
34 2009年7月号 和歌山電鐵貴志川線 貴志駅スーパー駅長 ※猫です
35 2009年8月号 東京モノレール 運転士
36 2009年9月号 北近畿タンゴ鉄道 運輸部営業課KTRアシスタント
37 2009年10月号 JR東日本 池袋駅助役
38 2009年11月号 大井川鐵道 観光車掌
39 2009年12月号 JR東海 大阪第二運輸所 車掌長

40 2010年1月号 JR東海 名古屋運輸所 新幹線運転士
41 2010年2月号 JR九州 客室乗務員 サブチーフ

(所属・職名等については誌面に記載されたものをそのまま記しました。)

 巻頭グラビアゆえ写真中心ですから、長々とテキストにして書く事もないのですが、思った事を記してみます。

1.鉄道に関わるのは、必ずしも鉄道会社の社員だけではない。
 第10回は関西空港駅の構内や特急〈はるか〉の清掃をするクルー。
 鉄道の清掃というと、どうしても「おじさん・おばさん」というイメージがあるし、現実に今でも大半がそうだろうと思います。
 しかし、当連載ではまだですが、東京駅の東北・上越新幹線の清掃クルーも、若手の女性を多数起用した事で話題を呼んだ事は記憶に新しい所です。
 これはJR西日本の関連会社でしたが、第26回は鳴子温泉観光協会に勤める観光駅長、第27回は肥薩おれんじ鉄道の駅の委託業務をするNPO法人の理事長で、鉄道との関わり方も、業界の外へと裾野が広がりつつあるようです。
 もっとも、第13回の「鉄道アイドル」って、何ぞや?って正直思いましたけれどね。

2.女性職員も、地位がだんだん向上している。
 第4回では名鉄の車掌が、「本物の車掌を出せ」と乗客から言われて泣いたというエピソードがありました。
 それが3年経って、第37回では池袋駅の助役、第39回では東海道新幹線の女性の車掌長が取り上げられるまでになっています。
 池袋駅の助役は入社から13年、新幹線の車掌長も8年の経験を経て今の地位をつかんでいる訳です。
 また、第5回の東京モノレールの駅員が、第35回では運転士に昇進して再登場しています。
 後述しますが、彼女たちの長年の努力の賜物なのは言うまでもない事です。
 
3.第3セクター鉄道は、その地域の有力な就職先になっている。
 もちろん、女性に限った事ではないですが。
 地方だと、どうしても就職先が限られてしまうし、もちろん鉄道が好きだったという動機もあります。
 ただ、他の鉄道ではなく、皆最初から地元の鉄道を目指していたというのは、発足の経緯から国鉄・JRのOBが職員の大半だった頃からは、大きく変わってきているなあという印象です。

 連載を斜め読みして、数点気になる部分がありました。

1.4年近く連載が続いていながら、大手私鉄が先に取り上げた第4回の名鉄の車掌しか出てこない所
 先日小田急の各駅停車に乗ったら、運転士が女性でした。
 小田急だったら、乗務員に限らなくたって、それこそロマンスカーのアテンダントとか、車内販売員とか、取材対象には困らないと思いますが。
 先月関西に行った時の旅行記を連載しましたが、その最中でも阪神の運転士や阪急の車掌に女性を見かけました。
 また、公営も路面電車の運転士(第3回の函館市、第21回の鹿児島市)だけで、地下鉄の職員が出てきません。
 これは彼女たちを雇う事業者側の事情があるのでしょうか。

2.直接乗客には関わらない部分でも女性がいたら、取り上げて欲しい
 列車に乗るために時刻表を買う読者が相手だから、裏方的な職場は対象になりえないのかもしれないけれど、やはり安全運行のためには大事な場所ですから。
 外の力仕事でなくても、運転指令とかにはいるかも知れません。
 航空業界だと、整備やハンドリングの現場に女性がいるのを、空港で見かけたりもするのですが…。

3.これは連載そのものではなく、取り上げられた職場の問題ですが、第1回の伊豆急の運転士と、第9回の智頭急行の車掌は、共に制服がスカートでした
 これは、運転の現場では非常にまずいと思います。
 なぜなら、運転士・車掌の場合、時には他の列車の停止手配を行う必要があり(「列車防護」と呼びます。)、特に列車の脱線などの大事故が発生した場合、線路際を走って、後続又は対向列車を停止させなければならない事になっているからです。
 スカート姿で、足元が不安定な線路際を全力疾走できるものでしょうか?
 第4回で名前が出た名鉄の「パノラマメイツ」(男性車掌とは別に、特急の指定席車(特別車)に乗務して乗車券のチェックや案内業務に携わっていた女性乗務員の事。今のJR東日本の「グリーン・アテンダント」と同じと思っていい。)や、第41回のJR九州の客室乗務員のように、直接運転には関わらないセクションだったらまだいいと思いますが。
 このあたりは事業者側に再考を求めたい所です。


 ついでに時刻表から外れますが、今後の「鉄おとめ」たちのあり方について。
 数が急速に増えて、管理職に上り詰める方もおられる程にはなりましたが、「鉄道むすめ」とかいうフィギュアの存在とかもあって、彼女たちが未だに「アイドル」視される風潮は残っていると思います。
 その彼女たちが、結婚などを理由に数年で辞めてしまったりすれば -もちろん、やむを得ない事情ではありますが- 、女性ならではの経験を後輩に伝える事もできないし、いつまで経っても「アイドル」的な立場からは抜け出せない事になります。

 これがヨーロッパへ行くと、例えばドイツでは長距離列車の車掌のクルーの5人に1人は女性(夜行にも乗務する。)で年齢層も比較的高目、北欧では駅の運転の現場(列車の連結作業などをおこなう。)でも見かけましたし、路面電車に至っては(特に東欧では)3分の1位はママさん運転士だったりする訳です。

 もちろん日本でも17年運転士を勤める、第22回の岡山電軌の運転士(当時56歳なのだそうです。たぶん、当連載の「鉄おとめ」では最年長)のような方もおられますが、こういう人がどんどん増えていく事が、本当に鉄道業界の中における女性の地位を確かなものにするはずです。
 そのためには、鉄道会社も、彼女たちが長く働けるような職場環境(設備面でも、制度面でも)の整備が必要ですし、まして「セクハラ」なんて問題が起きたりする事は絶対許されません。
 管理者もそうですし、同僚の男性職員たちも、心すべき事です。


 申し訳ありませんが、コメントは受け付けない事にしています。この記事について何かありましたら、本体の「日本の路線バス・フォトライブラリー」上からメールを下さい。折返し返事をしたいと思います。
 また、何か質問がありましたら、やはり本体上からメールを下さい。解かる範囲でお答えをしたいと思います。質問と答えは当ブログにも掲載します。(名前は公表しません。)



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